「善悪」
彼は、私を、この退屈で灰色の日常から救ってくれた救世主。彼と出会ってから日常に色が差して、生きている喜びを実感する。彼は紛れもなく私の光だ。
たとえ世間から後ろ指を指されても、私だけは彼の善性に救われたのだと主張する。私だけが彼の、彼だけが私の味方で理解者、だなんて、彼の瞳に映る自分を見つめていると本当にそう信じられる。背徳感にまみれた甘い蜜に溺れているんだってわかってる。悪事を働いている自覚がないわけじゃない。
先の見えない関係だから、精一杯の美しい私で今日も彼に微笑みかけた。この時間が少しでも長く続くことを祈って。
彼女は俺をヒーローだと言う。世界が変わったのだと爛々とした目で訴えてくる。俺は君と出会ってからも、そしてきっと別れた後も何も変わらない。俺の囁く甘い言葉で喜んで、滑稽な悪行を犯す君を本気で愛すことはない。
それでも、蕾のまま萎れてしまいそうだった女性が、自分のの言動で活き活きと咲いていく姿にはたまらない達成感があるから、俺はまた同じことを繰り返すのだろう。
彼女の微笑みで引き際を察する。美しく咲き誇る笑顔は別れの合図だ。
バレる前に清算すれば、傷つく人間はいないのだから。
4/26/2023, 4:39:24 PM