「君と出逢ってから、私は…」
ありきたりな言葉しか浮かばないけど、幸せです。
「大地に寝転び雲が流れる…目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?」
太陽の明るさと、酸欠由来の目眩が鬱陶しくて目を閉じた。
自分の鼓動が、呼吸音がうるさい。じわりと纏わりつく汗で張り付くTシャツが気持ち悪い。
土の香りと若草が生んだばかりの酸素を鼻と口から目いっぱい吸い込んで、肺に新鮮な空気を送り込む。
今度は鉄の匂いを喉の奥で感じる。どこかの血管が切れたのか、不愉快で、けれど全力を出した証のようで、変な達成感もある。
ようやく整ってきた呼吸を機に、瞼をゆっくりと開けた。
太陽の明るさを、空の青さを鮮明に感じる。空がいつもより高い。雲が風に流れていることで時間が流れていることを知る。
全力疾走した後だけは、学生時代の自分に戻れる。社会に揉まれ、あの頃とはなにもかも変わってしまった感性の中で、この疲労感だけは、自分があの頃と同じ人間なのだと実感させてくれる。
まだ、死んでない。大丈夫。
自分の所在を確認してから立ち上がれば、ここはさっきよりいくらかマシな世界に思える。
「「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。その人のことを思い浮かべて綴ってみて。」
自由度の低いお題は苦手です。
「優しくしないで」
彼に優しくされる度、過去の恋人の姿が浮かんでくるみたいで少しだけ嫌だった。
前の彼女から教わったのかな、とか。女の子の扱い慣れてるな、とか。考えすぎだと、贅沢だとわかってるけど、そんな繊細な心遣い、できるタイプだと思ってなかったから複雑だった。
もっと友達といるときのように、フランクで気なんか遣わなくったっていい。そういう姿を見て、良いなって思ったんだから。
なんか、慣れてるよね。
思わずそう口にすれば、彼が目を見開く。
自分の失言に気づいて慌てて訂正すると、珍しく彼が動揺してる。
そういう風に見せてんの。
真っ赤になった耳に気づいて今度は私が目を見開く。あんまり見るな、と粗雑な仕草で髪をくしゃっと撫でられた。
「カラフル」
私の日常は決してモノクロではないけれど、貴方と出会って色が増えた。
気づけば貴方に贈る、似合う色を探してる。