「風に乗って」
優しい春風が頬を撫でて、思わずその方向を振り返れば、その風のようにやわらかなピアノの音色が聞こえてきた。下校時刻は過ぎているけれど、吹奏楽部の誰かが残っているのだろうか。
誰もいない校舎から聴こえるピアノの音色なんて、一歩間違えば学校の七不思議になってもおかしくないのに、恐怖心は一切なく、ただただ好奇心が先行して足が音源に向かって進む。
この曲、なんだっけ。母が好きなフィギュアスケートの選手が踊っていた曲だな。クラシックには疎いけれど、まさに、春風のように柔らかい、美しい曲だと思ったのを覚えてる。
でも、今聴こえるそれは、どこか寂しく孤独に聞こえる。
弾き手でこんなに印象が変わるのか、それとも私の心情がそう解釈したのか。
その訳が知りたくて、そっと音楽室の扉の小窓から中を覗いた。
それが私と彼の出会いだった。
4/30/2023, 1:01:09 AM