セキレイ

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「刹那」

おまえといると、あっという間に老けそうだ。

いつもの調子で揶揄われても、今日は言い返してやる気にならない。私はこんなに離れ難いのに、まだ一緒にいたいのに、先輩は余裕な笑みを浮かべて楽しそうだから。
帰り道に伸びる影を、恨めしく見つめている私に気づかないはずもないのに。
言い返さない私に突っかかるわけでもなく、むしろ甘い瞳で見つめてくる彼に、なんだか居心地が悪くなって、可愛くない言葉で言い返した。

先輩にはいつも気苦労かけてますもんね。

まぁ、それもあるな。

彼はやっぱり、まだ嬉しそうに笑ってる。
なんで。もう少しで私の家に着いてしまうのに。着いてしまえばまた会いたくて焦がれる日々が始まるのに。
そう思っても、彼の瞳に邪気はない。繋がれた指先から、こっちまで気持ちが伝染して、絆されて、棘が抜けていく。寂しさが少し和らぐ。
私はやっぱりこの人に弱い。

離れる前は、少しでも可愛くいたいから。可愛くない私を上書きするように、彼の指をぎゅっと握って、じゃあどう言う意味ですか?とその真意を尋ねた。

……おまえと同じってこと。

私が老けてるってことですか?

焦って思わず食い気味で答えれば、今度は声を出して笑われた。



4/28/2023, 2:51:59 PM