びっぴ

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3/17/2024, 8:57:10 AM

怖がり

一時期、不安障害になりかけたことがある。
少しずつ大人になっていくにつれてお化けより人のほうが怖いと気づいたころだった。
一人が怖くなったのだ。
それは別に一匹狼になるのが怖いのではなくて、物理的に一人、もっと言えば誰もいない空間の中で一人だけという状況が怖い。
その時期恐怖を煽るかのように近くの地域で強盗殺人事件が多発していた。
私は親に何度も一人にしないでほしいと言った。
しかし私にも頼れる人ができた。
それが今の旦那。
怖がりな私をいつも温かく包みこんでくれような存在。
何かあってもこの人なら助けてくれる。

でも私知ってるんだ。
あなたがあの時の加害者だってこと。




2/20/2024, 12:01:19 PM

同情

「あー、やっぱり好きだわー。」

「それ口癖だよね。」

最近学校では、いつもこの会話から始まる。
私のクラスには隠れイケメンと言われている□□くんがいる。
私は密かに□□くんに好意を寄せていた。
学校の中で知っているのは親友の♡♡だけだ。
♡♡はいつも私を支えてくれる。
けれどなぜだか急に甘えてばかりはだめだと感じ、自分で行動しようと思った。
今日、告白しよう。

「私、今日告白しようと思う。」

「えぇー!急に?!」

「頑張るね。」

「う、うん。頑張って。」

この手の話には食いつきがいい♡♡が少し動揺して不安そうにしていた。
心臓からドッキンドッキンと音がする。
顔に血がのぼってきた。
□□くんはすぐそばにいる。

「あ、あのー□□くん。」

呼べた!
勢いで呼んでしまったけれど、すでにくじけそうで逃げ出したくなった。

「ん?どした?」

「えっと、その、このあと時間ある?」

「うん、あるよー。」

「できれば、人があまりいないところでお話したいことがあって。」

「あー、じゃあ3階の踊り場いく?」

「あ、うん!」

しっかり喋れているだろうか。
今にも倒れそうなくらい緊張して、変な汗もかいてきた。
よし、とりあえず誘うことはできた。
そこでチラッと♡♡を見た。
♡♡は親指を立ててニッカリとしている。
けれどなんだろう。
表情が少し曇っているような気がする。
足を止めて体調の調子を聞こうと思ったが、すぐに♡♡に「行け」の合図をされた。
私もOKの合図を送る。
貴重な体験だ。
頑張ろう。

「話って?」

踊り場についてしまった。
言う覚悟はできている。

「その…□□くんのことが好きです!」

「……えっと…ごめん。君の気持ちには応えられない。」

頭にのぼっていた血が一気に下がり、冷静になった。

「そう…だよね。聞いてくれてありがと。」

これが今言える限界だ。
私はすぐさま走って♡♡を探した。

「うわっ!」

人にぶつかったけれどすぐにそれは♡♡だということがわかった。
ずっとなっていた耳鳴りがそこでやっと静かになる。

「私ね、言ったよ。
 告白したよ。
 振られたけど、悔いはないよ。
 でも、でもね…。」

それ以上は涙が止まらなくて喋れない。
けれど♡♡には私の心はお見通しなのだ。

「うん。
 悲しかったんだよね。
 悲しいよね。
 大丈夫、大丈夫だよ。」

♡♡はいつものように私に同情してくれた。
また私は♡♡に甘えている。
♡♡のそばにいると落ち着く。

次の日□□くんが告白されて付き合ったという噂が広まった。
私は、噂が尾びれ背びれついて広まってしまったのだと思いこんでいた。
告白した身としては居心地が悪い。
運良くまだ□□くんは学校に来てないけれど。
それにしても今日は♡♡も来るのが遅い。
まだかまだかと窓を見ながら待っていると、♡♡の姿が見えた。
安心と嬉しさで体を上げて目を凝らすと♡♡は誰かと楽しそうに話している。
二人は校門の前に立つなり、繋いでいた手をほどいた。
あの同情は何だったのか。
私は思わず呟いた。

「□□くん…。」







2/18/2024, 1:42:48 PM

今日にさようなら。

私は明日引っ越しをする。
荷物はすでに新しい家に送った。
引っ越しの準備はできている。
あとは今日学校に行って、皆とお別れをして、帰って、車で出発するだけ。
転校の準備は…できている。

最後の学校。
緊張して鼓動が早い。
いつもどう皆と話していたっけ?
そんなことを考えながら登校した。

教室のドアを開けると、クラスの仲良しメンバーが私を囲った。
転校の話をすると思いきや、いつもと似たようなテレビの話で盛りあがった。
その雰囲気のおかげか、なぜだか肩の力が抜けた気がする。

それからいつもと同じような時間が流れ、何事もなくすべての授業が終わった。
その間私は泣くのを我慢するのに必至だった。

寂しい。お別れなんてしたくない。

時の流れとともに、私とクラスでの思い出が消えてしまうのではないかと思った。

放課後になっても私は椅子に座ったまま机に突っ伏していた。
そうしていると、またいつものメンバーが私を囲った。

「〇〇ちゃん。」

私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
その声は震えていてか細かった。

やっぱり嫌だ。みんなと一緒にいたい。

私はそこで初めて声を出して泣いた。
我慢できなかった。
それを見た皆も大きな声で泣いた。

ーーー

どれくらい皆で泣いていたのだろう。
しばらくしてお互いの顔がグチャグチャになっているのを見ると、皆で笑った。
こうやって一緒に笑えるのも今日が最後。
そんなふうに考えてしまってまた泣きたくなった。

「皆で帰ろう。」

一人の子がそう言うと、皆頷き、帰りの支度をし始めた。

帰りたくない。今日が終っちゃう。

思い出を振り返るかのようにいつもの道を下校する。
気づくともう別れ道についていて、普段よりつくのがとても速く感じた。

まだ一緒にいたい。

多分この時誰もがそう思ったけれど、誰も口にはしなかった。

そうして視線を最後まで交わしながら私は皆に背を向けて歩き出した。

足が重い。
前がぼやけて見えない。
戻りたい。
明日が来てほしくない。
振り返りたい…。

「〇〇ちゃーん!また会おうねーー!!」
「新しい学校でも元気でいてねー!」

遠くから皆の声が聞こえた。
ハッとして思わず振り返ると、皆笑顔で手を振っている。

あぁ、今日が終わるのか。

さっきよりも空が暗くなっている。

けれどもう覚悟はできた。
私の中の思い出は消えない。
私の時は終わらない。
進まないと!

「じゃあねー!」

全力の笑顔で手を振って、私はまた皆んなに背を向けて走り出した。

皆に、今日にさようなら。







2/17/2024, 11:07:04 AM

お気に入り

先生のお気に入りになりたい。

ひと目見てそう思った。
ハンサムで優しそうな顔にどこか闇深そうな笑顔を浮かべる先生のことを知りたい。手に入れたい。

それから私は事あるごとに先生に近づいた。
授業の質問をしたり、お菓子をあげたり。
そうしているうちにクラスの子に
「☆☆ちゃんは先生のお気にだよね。」
と言われるようになった。私自身もそう感じる。

ある日、私は下校時刻になると同時に机で寝たふりをした。
もちろんこれも先生と近づくためだ。
ここで先生が見回りに来るのは調査積みだった。
刻々と時間が過ぎ、私もウトウトしてきたとき、足音が聞こえた。
そして足音は私の前で止まりふわっと先生の匂いがした。

「…☆☆」

私は肩をビクッとさせて顔を上げた。
これは演技でもなんでもなかった。初めて呼び捨てで呼ばれたことに驚いたのだ。

「あ、起きた」

先生はあの闇深そうな笑顔を浮かべていた。
その笑顔はゾクッとするほどハンサムで私を見透かしているようだった。

この笑顔に何人の生徒が沼ったのだろうか。

先生は気に入ったものは必ず手に入れることのできる術を持っていた。
その術を私もかけられていたことに気がついた。

それは私が先生に感じる「知りたい」や「お気に入りになりたい」の感情よりももっと深く、先生と生徒との間では感じるはずのない、いや、感じてはいけない感情を出させるのだ。

いつから私は先生のお気に入りだったのだろうか。
もしかしたら私が思っているよりもずっと前だったのかもしれない。