川柳えむ

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1/24/2026, 2:30:24 PM

 シャッターを切る。
 小さな四角の中に、その一瞬の姿を仕舞い込む。
「あー逆光だよ、これ」
 画面を覗き込むと、たしかに逆光になっていて、映してもらったはずの私の顔がよくわからない。
「でもまぁ、これはこれで味があるんじゃない?」
 カメラを持った本人はどうにも納得いっていないようだが、私はこれで良かった。
 だって、きっと、君に写真を撮ってもらえて、ものすごく浮かれた顔をしていたから。ふと我に返って、恥ずかしくなってしまったんだ。


『逆光』

1/23/2026, 10:36:13 PM

 限りなく続く、白。
 どちらが上か下かもわからない。本当に真っ白な空間。
 前に進んでいるのかも、上っているのかも、下っているのかも、もしかしたら、後ろに後退しているのかも、私はそれすらわならない。
 ただ、辺り一面真っ白で。他には何も見当たらなくて。何も感じなくて。
 そこに、ただ独り、ぽつん。と、自分だけがいるようだ。

 ここは、どこだろう?
 どうして、こんな場所にいるのだろう?
 どうやって、ここに迷い込んだのだろう?

 真っ白な空間。
 何もない空間。
 白しかないから、私自身が本当にそこにいるのかさえもわからない。
 そんな消え入りそうなほどの白の中、私は、たぶん、歩き続けていた。
 どこに向かっているのかも、進んでいるのかもわからないままに。

 歩き続けた先に、私は見つけた。
 白い檻の中に閉じ込められ、隠された『私』を。
 そこで、何もないと思った真っ白な空間は、からっぽの私の心だと気付いた。
 白に隠されて、閉じ込められた――いや、自分で檻に閉じ込めていた。からっぽの私自身を。
 哀しくなって、鉄格子越しに、抱き締めた。何も持たない私を。
 一筋の涙が頬を流れ落ちると、世界が暗転した。

 ――朝だ。
 目覚めると、カーテンの隙間から、日差しが直撃していた。眩しい……。
 ふと、涙を流していることに気付いた。
 何か悲しい夢でも見ていたのだろうか?
 でも、どこか心はすっきりしていて。体を起こして大きな伸びをした。
 いつもの一日が始まる。それでも何かが変わるような、そんな予感と共に。


『こんな夢を見た』

1/22/2026, 10:44:10 PM

 私は過去に戻る決意をした。
 こんな日の為に用意をしていた。タイムマシーンだ。
 私は早速乗り込み、日付と時刻を合わせた。
 戻るぞ。――昨日へと!

 そうしてやって来た。
 届いた新聞を見て、間違いなく辿り着けたことを確認する。
 やった。成功だ!
 早朝にやって来たので、この時の自分はまだ寝ているはず。自分と鉢合わせないうちに早く家を出なくては。

 私は身支度を整えると家を飛び出した。
 行先は――コンビニ。
 私の目的、それは――即日売り切れた人気ゲームのコンビニコラボグッズを購入することだ!
 その為に私は一日前に戻ってきたのだ。
 昨日の私だって、発売開始すぐに買いに来たはずなのに、その時にはもう売り切れていた。こんなに早く売り切れるとは、いくらなんでもおかしい。転売ヤーのせいに違いない。転売ヤー許すまじ。
 だから、転売ヤーが買う前に私が買い占めるのだ。

 コンビニに辿り着き、棚にグッスが並べられると同時に、私はそれを全てカゴに入れてレジへと並んだ。そして無事に購入することができた。
 やった! 目的達成だ!
 コンビニを出ると、向こうから歩いてくる人影が見えた。
 まずい。あれは、私だ。
 慌ててコンビニの影に隠れる。
 私は私に気付くことなくコンビニの中へと入っていった。
 ――そこで、私はすぐ売り切れていた理由に気付いたのだった。


『タイムマシーン』

1/21/2026, 12:07:16 PM

 深夜の薄暗い部屋。
 電球に照らされ、影がゆらりと揺れる。
 引き戸をずらして、そっと部屋の様子を窺う。
 そこには誰もいない。

 でも、確かにいるんだ。何かの気配が。そろりそろりと底を這うような。得体の知れない何かが。

 ――どこだ? 隠れている?

 包丁を持って、うろうろ……。

 逃げる。
 僕は逃げる。

 ――安全な場所はどこにある?

 何かがいる。どこかにいる。
 逃げ場所なんてどこにもなくて、一人部屋の外で膝を抱える。片目で引き戸を睨む。
 その引き戸が、ゆっくりと、開かれる。
 その向こうに、キラリと光る、片方の目。
 そして、その全てを、静かに現した。

 手に持つものは――包丁。
 いつの間に手にしたか、僕も同じものを持つ。
 殺される前に――振り下ろす。
 何度も、何度も。

 ラジオから微かに流れるノイズ。

『――……本日、――ザザッ――……で……があり――……人、死亡――……。なお、現在――……。……また、……により……ザザッ――』

「アハハハハハハハハ!」

 そいつは笑った。血塗れで僕を見てくる。
 僕は叫ぶ。
 血塗れの姿の僕。
 そいつは、僕の姿。
 殺したはずの、そいつ、僕の姿。

 怖くなって、また逃げ出す。

「逃げるなよ!」

 横たわったそいつが言う。

「また逃げるのか!」
「お前にはお似合いだ!」
「殺しても殺せない!」
「臆病な自分は殺せない!」
「一生ついて回るさ!」
「逃げられると思うなよ!!」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!」

 頭の中から声がする。

 もう、何も、見ない。
 僕は、悪くない。

 ほら、そいつは、死んだ。
 もう歩き回らない。もう怯えなくていい。もうどこにもいない。
 僕が殺したんだ。

 今日みたいな夜は魔物が潜む。
 カーテンの隙間から射し込む月明りが僕を照らした。


『特別な夜』

1/20/2026, 10:31:03 PM

 海の底って宇宙みたいだな。

 宇宙が好きな男はそう思った。
 海の底は暗くて静かで、遥か彼方にキラキラと輝くものが見える。
 手を伸ばしても届かない。
 近付き過ぎたら翼は溶けてしまうから。
 堕ちていく。意識と共に、底の方へと。
 でも思ったよりも暖かくて、心地良くなって、目を閉じた。
 まるで宇宙に放り出されたようで、なんだか幸せな気持ちになった。

 浴槽の底で発見された男の顔は、どこか幸せそうな顔をしていた。


『海の底』

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