ここはたくさんの動物が暮らしている森。いろんな動物が、いろんなことをしています。その中に、魔法が使える猫がいました。
ある日、なかなか朝がやって来ませんでした。夜が明けないので、動物達はそのままずっと眠り込んでいます。
唯一活動していた魔法使いの猫が、夜の女王である月に、なぜ朝が来ないのか尋ねると、月はこう答えました。
「知らないわ。太陽が寝坊でもしてるんじゃないかしら?」
猫は箒に跨ると空に飛び上がり、東へと全速力で向かいました。
夜空を越えて、少しずつ空が白んできます。
そうしてその先に、朝と昼の王である太陽が眠り込んでいるのを見つけました。
起こすと、まだまだ眠い太陽は一瞬ムッとした顔をしましたが、時計を見て飛び上がりました。
「まずい。遅刻だ! 起こしてくれてありがとう!」
そうして、ようやく森に朝がやって来たのでした。
動物達が時計を見て、「おかしいなぁ。なんでこんなに時間が経っているんだろう?」と不思議がる中、猫だけがその真実を知っていました。
『夜空を越えて』
温かい腕の中で目が覚めた。
嬉しそうに私の顔を見つめてくる。
これが『母』なんだろうと、直感的に理解した。
ベビーベッドに寝かされ、天井を見つめる。小さな部屋だ。
母は毎日私の顔を覗いて、嬉しそうにニコニコしている。
何が楽しいんだろうか……。
そういえば、私は、ここに来る前は何をしていたっけ?
……思い出せない…………。
でも、今あるこの温かい風景はずっと忘れないでいようと、心に刻んだ。
『ぬくもりの記憶』
君の冷たくなった指先をぎゅっと握って、僕のポケットにそっと運ぶ。
冬は寒くて嫌だね。でも、これで少しは温かくなるかな?
……全然温かくならないね。
それに、乾き切ってなくてぬるぬるするし、ポケットも赤く染まってきた。
やっぱりいらないや。
僕は君の指先を、近くのゴミ箱にぽいっと投げ捨てた。
『凍える指先』
雪原のその先へ進みたかった。長い冬を越えたその先に、春があるから。
手を伸ばした。けれど、届かない。
いつの間にか降り出した雪が、激しく吹き荒れた。濃い白が視界を覆っていく。前が見えない。
もう、先に進む力は残っていない。
仲間がいた。
今もなお別の場所で、使命を果たす為に戦っている仲間が。
自分がいなくなっても、世界は回る。あいつらが、世界を回してくれる。
……眠くなってきた。
このまま、終わっていくのだろう。……。
…………。
厚い雲の隙間から、薄い光が差した。徐々に吹雪が止んでいく。
雲もいつしか去っていき、太陽が辺りを温かく照らし出した。
目を開けると、どこまでも澄んだ青空が、視界いっぱいに広がっていた。
「…………春?」
春がやって来たんだと、そう感じた。
きっと使命は果たされた。凍えることはもうない。
雪原の先へ、仲間の元へと、再び歩き出す。
早く会いたいと、心から願っていた。
『雪原の先へ』
部屋の窓を開けると冷たい空気が流れ込んでくる。
外に向かって息を吐けば、それはふわりと白く浮かぶ。
「さむーい!!」
子供達はキャッキャッと笑いながら息を吐き出した。
「あ、ねぇねぇ」
窓を閉め、そこに向かって息を吹きかける。それは透明なガラスを白く曇らせた。
姉の指先が、その白いキャンバスにスマイルマークを描いた。
それを見ていた弟の目が輝く。
「僕もやる!」
窓ガラスにたくさんの『楽しい』が描き込まれていく。
「こら! 窓拭きの途中でしょ!」
ママの雷が落ちる。二人は残念そうに溜息を吐き、「は~い」と返事をした。
大掃除はまだまだ終わりそうにない。
『白い吐息』