川柳えむ

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10/20/2025, 10:44:19 PM

 カラオケへ行って大声で歌を歌う。
 しっとりした曲からみんなで歌って踊れるネタ曲まで。
 腹の底から歌って、心の底から笑う。
 それから、ファストフード店へハンバーガーを食べに行って、くだらない話をしながら爆笑する。
 今ならうるさくて迷惑だろうなと思うけど、あの頃は周りなんて見えていない。箸が転んでもおかしくて、馬鹿だな~と思いながら笑ってた。
 今はそんな些細な出来事で爆笑することもなくなったけど、今でもまだ。
『カラオケ行かない?』
『いいねー』
 私達が友達なのは変わらない。


『friends』

10/19/2025, 11:04:20 PM

 君から『声が出なくなった』とメッセージが届いた時はとても驚いた。
 君は歌うのが大好きで、その歌声で大勢の人を魅了していた。
 そんな君が声を出せないなんて。
 メッセージを受け取った僕は、慌てて君の元へ飛んでいった。
 部屋のインターホンを鳴らすと、君が生気のない顔をして出てきた。

 部屋に入り、事情を訊く。
「原因はわかってるの?」
『はっきりとはわからない』
 スマホのメモで返事をしてくれる。
「風邪引いてたとか」
『元気』
「元気ならいいんだけど……」
 その割に、表情は暗い。
 当たり前だ。君は、歌うのが大好きなんだから。
「医者には行った?」
『うん』
「医者はなんて?」
『ストレスじゃないかって』
「思い当たることはあるの?」
 短い沈黙が訪れ、それから、君はゆっくりとメモを打ち出した。

『上手に歌わないといけない
 みんなが期待してる
 私を否定する人もいる
 歌が大好きなのに歌うのが辛い』

 プレッシャーか……。
 君のことを小さな頃から見ていた。
 君は歌が心から好きで、いつも楽しそうに歌っていた。
 たしかに最近の君は、表情が硬かった。
 期待に応える為に、焦って、必死になって、そして、ストレスから声が出なくなってしまった……。
「歌ってよ」
 君が驚いた表情で僕を見る。
「声が出ないのはわかってるよ。でも、僕は君が楽しそうに歌ってるのを見るのが好きだ。観客は僕だけ。上手く歌おうとか考えなくていい。声が出なくなっていい。僕の為に歌ってくれないか」
 君は戸惑った様子で、それでも歌い始めた。
 声は出ていない。でも、少しずつ表情が崩れていく。だんだんと、昔みたいに楽しそうな表情に変わっていく。
 声は出ていないけど、僕には聴こえる。楽しそうな君の歌声が。

 君が歌い終わると同時に、大きな拍手を贈った。
「やっぱり君の歌声は最高だ!」
「声聴こえてないのに?」
 君が楽しそうに笑った。


『君が紡ぐ歌』

10/19/2025, 8:27:23 AM

 山の中で迷子になった。遭難だ。
 辺りは暗く、霧に包まれ、疲労困憊の私はもう歩くのも精一杯だ。
 すると、前方に光が見えた。山小屋か?
 ふらふらと光の方へ進んでいくと、突然霧が晴れ、目の前に山には場違いの綺麗な建物が現れた。山小屋というより、小さなお屋敷だ。誰かの別荘だろうか。
 助かった! 安心からか、さっきまでの疲労が嘘のように感じた。
 しかし、ノックをしてみても、反応はない。
 遠慮がちに扉を開け、声を掛けた。
 明かりが点いているのに、誰もいないのか? やはり反応はなく、人の気配すらしなかった。
 申し訳ないと思いつつ、こちらも命がかかっている。そのまま屋敷に上がらせてもらった。
 部屋に入り、ふかふかのソファに座ると、眠気が襲ってきた。

 そして、そのまま山から戻ることはなかった。


『光と霧の狭間で』

10/17/2025, 10:24:13 PM

 時がサラサラと零れ落ちていく。
 もう私には止められない。

 目の前には大きな砂時計が存在している。
 どれだけ抗おうとも、何も変えられなかった。

 ただ、砂が落ちていくのを眺める。
 あとは、祈ることしかできない。
 せめてどうか、幸せでありますようにと。


『砂時計の音』

10/17/2025, 12:43:58 AM

 天文部、夜の活動。
 望遠鏡も持たず、高台の公園へと繰り出した。
 この公園は視界が開けていて、街の景色や、空を見上げるのに丁度いい。
「これ渡しとくな」
 先輩が星図を渡してきた。
 紙にはたくさんの星座が描かれていて、方角を合わせると、星座の位置がわかるようになっている。
「望遠鏡じゃなくて、こうやって肉眼で見るのも綺麗ですよねー」
「そうだな。あ、あの星座、なんて星座かわかるか? 星図見ないで答えてみろ」
 先輩が無茶振りをしてきた。いや、天文部なら答えられて当然なのかもしれないけど……。
「えーっと……」
「覚えてないのか? まだまだだな。あれはケフェウス座だ」
「ケフェウスって……カシオペヤの夫でしたっけ?」
「そうだ」
 もし、あそこにいるのが先輩だとしたら、カシオペヤは私でありたいな。
 なーんて……。
 でも、神話だと結構酷い話なんだっけ? 神話って大体そんなもんだけど。
 ――それにしても、
「綺麗だなぁ……」
 思わず呟いていた。
「あぁ、綺麗だよな」
 先輩の言葉にはっとする。
 先輩は、きっと星のことを言っているんだろうけど、私は違った。先輩の横顔に見惚れて、思わず零れていた。
「そ、そうですよね。とっても綺麗です!」
 そうして、二人で夜空を暫く見上げていた。
 このまま時が止まればいいのに。そう思いながら。

「星図、ありがとうございました」
 帰り際、星図を返そうとすると、
「記念に持っておけ」
 と、そのまま渡された。
「来年にはおまえ一人なんだ。頑張って後輩入れろよ。そしてこうやって、また一緒に星空観察に来てやれ」
 胸がチクリと痛む。
 来年には私一人。先輩はもういない。
 私は先輩につられて、この部活に入った。その先輩がいなくなる。この星図のように、私に光を示してくれる存在が、もう、消えてしまう。
 私は、どうしたらいいんだろう。

 何も言えないまま、時は経ち、大切にとっておいたはずの星図も、どこかへと消えてしまった。
 後輩も入れることはできず、もうすぐこの部活も私の卒業と共に消える。
 あの日、手を伸ばしていたら、どうなっていただろう?
 でも、星に手は届かない。どんなに光が近く見えても、どれだけ手を伸ばしても、星は遠くに輝いている。


『消えた星図』

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