川柳えむ

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 山の中で迷子になった。遭難だ。
 辺りは暗く、霧に包まれ、疲労困憊の私はもう歩くのも精一杯だ。
 すると、前方に光が見えた。山小屋か?
 ふらふらと光の方へ進んでいくと、突然霧が晴れ、目の前に山には場違いの綺麗な建物が現れた。山小屋というより、小さなお屋敷だ。誰かの別荘だろうか。
 助かった! 安心からか、さっきまでの疲労が嘘のように感じた。
 しかし、ノックをしてみても、反応はない。
 遠慮がちに扉を開け、声を掛けた。
 明かりが点いているのに、誰もいないのか? やはり反応はなく、人の気配すらしなかった。
 申し訳ないと思いつつ、こちらも命がかかっている。そのまま屋敷に上がらせてもらった。
 部屋に入り、ふかふかのソファに座ると、眠気が襲ってきた。

 そして、そのまま山から戻ることはなかった。


『光と霧の狭間で』

10/19/2025, 8:27:23 AM