君から『声が出なくなった』とメッセージが届いた時はとても驚いた。
君は歌うのが大好きで、その歌声で大勢の人を魅了していた。
そんな君が声を出せないなんて。
メッセージを受け取った僕は、慌てて君の元へ飛んでいった。
部屋のインターホンを鳴らすと、君が生気のない顔をして出てきた。
部屋に入り、事情を訊く。
「原因はわかってるの?」
『はっきりとはわからない』
スマホのメモで返事をしてくれる。
「風邪引いてたとか」
『元気』
「元気ならいいんだけど……」
その割に、表情は暗い。
当たり前だ。君は、歌うのが大好きなんだから。
「医者には行った?」
『うん』
「医者はなんて?」
『ストレスじゃないかって』
「思い当たることはあるの?」
短い沈黙が訪れ、それから、君はゆっくりとメモを打ち出した。
『上手に歌わないといけない
みんなが期待してる
私を否定する人もいる
歌が大好きなのに歌うのが辛い』
プレッシャーか……。
君のことを小さな頃から見ていた。
君は歌が心から好きで、いつも楽しそうに歌っていた。
たしかに最近の君は、表情が硬かった。
期待に応える為に、焦って、必死になって、そして、ストレスから声が出なくなってしまった……。
「歌ってよ」
君が驚いた表情で僕を見る。
「声が出ないのはわかってるよ。でも、僕は君が楽しそうに歌ってるのを見るのが好きだ。観客は僕だけ。上手く歌おうとか考えなくていい。声が出なくなっていい。僕の為に歌ってくれないか」
君は戸惑った様子で、それでも歌い始めた。
声は出ていない。でも、少しずつ表情が崩れていく。だんだんと、昔みたいに楽しそうな表情に変わっていく。
声は出ていないけど、僕には聴こえる。楽しそうな君の歌声が。
君が歌い終わると同時に、大きな拍手を贈った。
「やっぱり君の歌声は最高だ!」
「声聴こえてないのに?」
君が楽しそうに笑った。
『君が紡ぐ歌』
山の中で迷子になった。遭難だ。
辺りは暗く、霧に包まれ、疲労困憊の私はもう歩くのも精一杯だ。
すると、前方に光が見えた。山小屋か?
ふらふらと光の方へ進んでいくと、突然霧が晴れ、目の前に山には場違いの綺麗な建物が現れた。山小屋というより、小さなお屋敷だ。誰かの別荘だろうか。
助かった! 安心からか、さっきまでの疲労が嘘のように感じた。
しかし、ノックをしてみても、反応はない。
遠慮がちに扉を開け、声を掛けた。
明かりが点いているのに、誰もいないのか? やはり反応はなく、人の気配すらしなかった。
申し訳ないと思いつつ、こちらも命がかかっている。そのまま屋敷に上がらせてもらった。
部屋に入り、ふかふかのソファに座ると、眠気が襲ってきた。
そして、そのまま山から戻ることはなかった。
『光と霧の狭間で』
時がサラサラと零れ落ちていく。
もう私には止められない。
目の前には大きな砂時計が存在している。
どれだけ抗おうとも、何も変えられなかった。
ただ、砂が落ちていくのを眺める。
あとは、祈ることしかできない。
せめてどうか、幸せでありますようにと。
『砂時計の音』
天文部、夜の活動。
望遠鏡も持たず、高台の公園へと繰り出した。
この公園は視界が開けていて、街の景色や、空を見上げるのに丁度いい。
「これ渡しとくな」
先輩が星図を渡してきた。
紙にはたくさんの星座が描かれていて、方角を合わせると、星座の位置がわかるようになっている。
「望遠鏡じゃなくて、こうやって肉眼で見るのも綺麗ですよねー」
「そうだな。あ、あの星座、なんて星座がわかるか? 星図見ないで答えてみろ」
先輩が無茶振りをしてきた。いや、天文部なら答えられて当然なのかもしれないけど……。
「えーっと……」
「覚えてないのか? まだまだだな。あれはケフェウス座だ」
「ケフェウスって……カシオペヤの夫でしたっけ?」
「そうだ」
もし、あそこにいるのが先輩だとしたら、カシオペヤは私でありたいな。
なーんて……。
でも、神話だと結構酷い話なんだっけ? 神話って大体そんなもんだけど。
――それにしても、
「綺麗だなぁ……」
思わず呟いていた。
「あぁ、綺麗だよな」
先輩の言葉にはっとする。
先輩は、きっと星のことを言っているんだろうけど、私は違った。先輩の横顔に見惚れて、思わず零れていた。
「そ、そうですよね。とっても綺麗です!」
そうして、二人で夜空を暫く見上げていた。
このまま時が止まればいいのに。そう思いながら。
「星図、ありがとうございました」
帰り際、星図を返そうとすると、
「記念に持っておけ」
と、そのまま渡された。
「来年にはおまえ一人なんだ。頑張って後輩入れろよ。そしてこうやって、また一緒に星空観察に来てやれ」
胸がチクリと痛む。
来年には私一人。先輩はもういない。
私は先輩につられて、この部活に入った。その先輩がいなくなる。この星図のように、私に光を示してくれる存在が、もう、消えてしまう。
私は、どうしたらいいんだろう。
何も言えないまま、時は経ち、大切にとっておいたはずの星図も、どこかへと消えてしまった。
後輩も入れることはできず、もうすぐこの部活も私の卒業と共に消える。
あの日、手を伸ばしていたら、どうなっていただろう?
でも、星に手は届かない。どんなに光が近く見えても、どれだけ手を伸ばしても、星は遠くに輝いている。
『消えた星図』
あーまた……またやりました。ごめんなさい。
はい。投稿忘れですね。
しかも、今回は、完全に忘れてた。後回しにしたとかでなく、完全に。アプリの存在すら。
そんなわけで、みんなの作品遡ったりして、確認したんですよ。テーマを。
そしたら――梨?
まぁ……じゃあいいか。忘れてても。結局何書けばいいか迷ってそうだし。
――いや、そんなことなかった。あるじゃないか、『梨』で書けることが。
そうだ。自分、山梨県出身だった。
果物で割と有名な山梨。特産品は葡萄や桃の山梨。梨はそんなでもない山梨。
そんなわけで、梨でも書けた気がします。
いや、書けてないのか。特産品ではないし。
――オチ?
オチなしということでね。なしだけに。
……お後がよろしいようで。
『梨』
愛 - 恋 = ?
謎解きかな? 謎解きだな(断言)。
謎解きが好きな私は、今日は休みを活かして、三つも謎解きイベントをこなしてきた。それくらい好きなんだ。
そんな私が言うんだ。この文字列、どう見ても謎解きだ。間違いない。
漢字? 心は引けるけど、それ以外はどうなる?
ひらがなにしてみる? あい - こい = ?『あ』 から『こ』を引くって何だ……。
ローマ字に変換してみる? AI - KOI = ? うーん、変わらず……。
英語? これはどっちも『love』か……。いや、そうなると、love - loveで、空になってしまう。なくなるのが正解? 愛から恋を引いたら何も残らないってこと?
うーん、うーんと唸り続ける。
だからきっと、この謎は一生解けない。
『愛 - 恋 = ?』