忙しい。忙し過ぎる。
本当にここ数日は忙し過ぎて、帰宅してからも仕事して、睡眠時間は毎日3時間くらいで。
ふらふらになりながらも、趣味の執筆活動だけは続けている。
でも、とにかく、もう疲れた。
この忙しいのももう少しだけだけど、本当に休みたい。
キリがいいとこで、一瞬手が止まる。
疲れて、何も考えられない。
せめて、休憩がてら、執筆でもしようかと手を動かすが、やはり何も考えられない。
頭が空白で埋まっていく。
あー……もう無理だ。
少しだけ瞼を閉じた。
『空白』
台風が過ぎ去った。
『台風一過となった今日は、各地で晴れ間が広がり、青空が戻ってきています』
ニュースから流れる言葉の通り、見上げれば青空が広がっている。
私はこの言葉を聞くたび、小さい頃はこう思っていたな……と思い出す。『台風一家』って、なんか家族みたいなたくさんの台風が来てるのかな、とか。でもその割には晴れてるよね、とか。
他にも『波浪警報』を『ハロー警報』。気象関係ではないけど、『汚職事件』を『お食事券』とか。
他にも『加齢臭』を『カレー臭』、『東名高速』を『透明光速』、『土用の丑の日』を『土曜の牛の日』……とかね。
あるよね。脳内の変換が間違っていて、どういうこと? ってなってたもの、たくさん。
大きくなるにつれ、あーそういうことだったのねーって知ること、たくさん。
……え? 『怪盗乱魔』って、本当は『快刀乱麻』なの? そういう、なんか、悪魔とかみたいな怪盗の漫画じゃないの? 複雑な事件を見事に解決することの四字熟語? それこそ、そういう漫画ありそうじゃん。もうそれでいいじゃん。……知らなかったー。
(実際にそういうタイトルの本はあるみたいです)
『台風が過ぎ去って』
何度目の報告になるだろうか。
もう私は一人きりになってしまった。
無理なお願いだとはわかっているが、どうか、私を助けに来てはくれないか。
あぁ。お願いの前に、今回は私の過去を含めた話をしよう。
私はみんなも御存知の通り、火星の調査を目的に、民間人から集められた者の一人だ。
実のところ、私は、確かに宇宙への興味もあったが、本当になりたいものは別にあった。
それはSF作家だ。
しかし私にはてんで才能がなかったものだから、夢を諦めることにした。
そしてなんの気なしに火星の調査に応募してみたところ、まぁ予想外にも、調査員として合格してしまったわけだ。
地球自体には特段執着や拘りもなかった。
たとえそれが片道切符だとしても構わなかった。
こうして私は何人かの仲間と共に、火星へと飛び立った。
火星での生活は過酷を極めた。
全て自分達でやらなければならない。
それは一般的なものではない。
食糧を作ることももちろん大変だったが、この惑星に適応する体を作ることや、謎の病原菌への対処。そしてまさかいるとは思ってもみなかった、見たこともない生物との戦いなんかもあった。
私は起きた出来事を報告と称して面白可笑しく綴り、それを地球へと送り続けた。
そしてその報告書は人気を博し、とうとう書籍化されることとなった。
私の夢が思っていたものとは違うところで形となってしまった。
そのこと自体は素直に嬉しかった。
しかし。
本になったところで、私はそれを手にすることはできない。
本屋に並ぶところを見ることすら叶わない。
今、私は後悔している。
なぜ片道切符を容易く受け入れてしまったのか。
地球に帰りたい。
帰って、私の本が並んでいるところを見て、私の本を手に取りたい。
だから。
誰か、私を助けに来てはくれないだろうか。
私は私の本をこの目で確認することができれば、後はどうなってしまったっていい。
たとえ、私がこの本を面白可笑しくしようと、仲間達をこの手で殺してしまった罪によって投獄されようとも構わない。
どうか、私を地球に帰してくれ。
『ひとりきり』
「サンゲンレッド!」
「サンゲングリーン!」
「サンゲンブルー!」
「「「原色戦隊サンゲンジャー、参上!」」」
サンゲンジャーは正義の味方。今日も悪い怪人共をギタギタに叩きのめす。
「……なぁ、なんで三人なんだ?」
戦いが終わって休んでいるところを、グリーンが二人に訊いた。
ブルーは溜息を吐いた。
「三原色がテーマだからだろうな。単なる原色がテーマならもっと人数がいたはずだ」
「シアン、マゼンタ、イエローを入れるのは?」
「光の戦士みたいな扱いにしたいんじゃないか?」
二人で話し合っている。
レッドはそれを横から止めた。
「グダクダ言ってもしょうがない。俺達三人で頑張るぞ!」
しかし、二人の目は据わったまま。じろっとレッドを睨み付けた。
「戦隊モノって、大体五人じゃん! 少ないよ!」
「何ならもっとたくさんいるパターンもあるしな」
「全然足りない! 主に女の子が!」
「なんでムサイ男ばかりなんだ!」
「戦力の話は!?」
「女の子を入れろ!」
「そうだ! シアンちゃんとか、マゼンタちゃんとか、イエローちゃんとか!」
「全員女の子想定!?」
二人の文句は止まらない。
「別に今は何色が女だっていいんだ!」
「そうだ! レッド、おまえ、女の子と変われ」
「変われ!? 何を無茶なことを……」
「交代が無理なら、改造がある。怪人共だって元は人間で改造されたって話もあるしな」
「え、ちょ、待て待て待て待て!!!!!!!!」
二人の目に狂気の色が浮かんでいる。正気じゃない。
「アッ――!」
レッドは敵の陣地に連れて行かれ、そして――。
――怖いのは怪人でも何でもない。人間なんだと、レッドは悟った。
『Red, Green, Blue』
今日も私はかわいい。
かわいいからSNSに写真をアップする。
みんなから賛辞のコメントが届く。
だって、かわいいから。そう、私はかわいいの。
ふと振り返ると、知らない人が割れた鏡に映っていた。
気持ち悪くて、更に粉々に叩き割る。
再びスマホを見る。
私の美貌に嫉妬したアンチが、コメントに沸いていた。
『ゴリゴリにフィルターかけてんじゃん。絶対ブスwwww』
すぐに通報を押す。
ふざけんな。ブスはてめーだろうが。
私はかわいいんだ。これが私の真実た。スマホの中にある、ここが私の現実だ。
『フィルター』