どこからか足音が響いてくる。
コツコツ……と、離れているが、確実に。
幽霊が出ると噂の廃墟。
話の種にと、深夜一人でやって来た。
そう。一人しかいないはずなのに、明らかに自分以外の足音がしている。
――まずいだろ、これ。
ダッシュでその場から逃げ出す。
逃げて逃げて、しかし、とうとう目の前にそいつが現れた!
人だ。
「あれ、あなたも忍び込んだんですか?」
どうやら、自分以外にも同じことをやっている人間がいたようだ。
驚かせやがって。
でも、そうだよな。そもそも足音がしているんだから、幽霊なわけがない。幽霊には足がないって相場が決まっている。
「でも、おかしいな。僕以外の足音はしなかったのに」
そいつが言う。
それから、こちらの姿をよく見て――二人して悲鳴を上げた。
『足音』
夏休み最終日。
やだなぁ……終わってほしくないよ……。ずっと夏休みでいいよ……。
宿題だって終わってないし。
外はまだこんなにも暑い。こんな暑さで外にで出たら倒れちゃうよ。
ねぇ、せめてあと一日でもいい。夏休み延長しない?
あー夏休み終わりませんように終わりませんように終わりませんように終わりませんように。
神様願いを叶えてください!
そんなことを願ってどれくらい経っただろう。
神様は願いを見事叶えてくれた。
そして、僕は8月31日の世界に閉じ込められた。
繰り返される変わらない毎日。
最初は神様が助けてくれたんだって、頑張って宿題だって終わらせた。
けれど、終わらせた宿題も、寝て目覚めれば元通り。また真っ白になっていた。そして僕の頭の中も、わけがわからず真っ白だ。
それでも最初は楽しかった。純粋に喜んでいた。
でも、どんどん不安になっていく。毎日が、つまらなくなっていく。
一体、どうやったらこの世界から抜け出せるのか。
新しく、終わらない夏休みの宿題ができた。
『終わらない夏』
体が重くて、なかなか上手く進めない。おかしいな。
周りの猫よりもずっと狩りが上手くて、誰よりも早く走れていたのに。
なんだか意識も朦朧としてきて、そのまま倒れた。
でも気付けば、体が軽くなっていた。こんなに上手く飛び跳ねられたのはいつぶりだろう。
そうして、いつもの庭を飛び出して、どこまでも遠くまで駆け出した。
いつも見上げていた遠くの空へ。その先の向こうへ。
遠くまで遠くまで駆けていくと、今度はだんだんと体が上手く動かせなくなっていく。
ゆらゆらと、ふわふわと。
進んでいくうちに気付いた。
やあやあ、そうか。これが、世に聞く――“宇宙”。
――聞こえますか? こちら、宇宙猫C号。
宇宙はすごい。広い。なかなか前へ進めないことだけが難点だ。
ずいぶんと前に聞いたことがある。人間はなんだか重そうな格好をしないと宇宙にいられないと。
それに比べて、私はすごい。
だってそのままの姿で、のろのろとすいすいと。ゆっくりだけど、進んでいく。
そうやって進んでいったら、隣の星に着いた。
衛星『月』。
――地球の皆さん、どうしてますか? こちらからは、鏡の向こうで見た青い青いまあるい目のような、キレイな星が見えます。
とても体が軽いです。飛び跳ねたらどこまでも飛べそうなくらい。聞いたことがある。月は地球と比べて重力が小さいって。だからこんなに簡単に飛べるのかな?
そうして月をぐるぐる回りながら、その昔、人間が降り立ったとかいう噂に聞いた場所はここかな? そんなことを考えています。
月面散歩に飽きたら、月をまた離れて、今度はどこへ行こうかと、考える。
うん、どこまでも行けそうな気がしてる。
振り返って見下ろした先には、青い星。
私は今から長い長い旅に出る。いつかきっと帰ってくるから。
その時まで、――ばいばいさようなら。
『遠くの空へ』
僕らは世界の平和の為、旅をする仲間。
今日は不気味な魔物がたくさん出るという、おどろおどろしいダンジョンへやって来た。
「ここの魔物は恐ろしく強いという。気を引き締めていこう!」
戦闘を進む僕は振り返り、仲間へと声を掛ける。
「おー!」
仲間は元気良く腕を上げた。
ダンジョンの奥は暗い。
僕は慎重に様子を伺い――、
「わっ!」
――耳元で大きな声がした。
僕の心臓は跳ね上がり、そこで記憶が途切れた。
「勇者ってばすぐ死ぬんだから」
教会で生き返らせてもらった僕は、仲間の不満を一身に受けていた。
いや、文句を言いたいのはこっちだ。
「驚かすなって、いつも言ってるだろ!」
「勇者がビビりなのがいけないんでしょ」
勇者である僕の性格は、たしかに昇進者の怖がりで……逆に、仲間の性格は、怖い物知らずのいたずら好きだ。
こうして、毎回驚かされては、声を上げる間もなく、死んでいる……。
「とにかく、もうやめて! 全然ダンジョン攻略進まないじゃん!」
「はーい」
とか言って、なかなかやめてくれないんだ。
驚きの感情を上回り、心臓が止まってしまう僕にも問題がある。しかし、それでもやめない仲間に、恐怖や不満の感情が沸き上がる。
はぁ……。仲間がこんなんで、果たして僕らはやっていけるのかなぁー?
『!マークじゃ足りない感情』
手のひらの上にスマホがある。
そのスマホで、あるアプリを開いている。
アプリには、たくさんの文字が並んでいる。たくさんの人がそれぞれの物語を紡ぎ、それが人の数だけ並んでいる。
君は誰かの物語を読んでいる。
そう、今は私の物語を読んでいる。
果たしてそれは、君にとってどう映るだろうか?
君が見てきたたくさんの景色の中の一つとして、記憶に残ってくれるだろうか?
『君が見た景色』