川柳えむ

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6/26/2025, 10:57:52 PM

 君の声を最後に聞いたのはいつだったか。

 君から手紙が届いた。
 シンプルな便箋には、シンプルに「さよなら」と一言だけ書かれていた。

 連絡を取らなくなって、いつの間にか自然消滅していた。
 実際、君の愚痴を聞き続けるのも辛くなっていたし、仕方ないと思う。

 それにしても、今になって急にこんな手紙が届いたことが不安になり、君の住んでいたマンションへとやって来た。
 部屋はもうもぬけの殻で、どこへ行ってしまったのかもわからなかった。
 そこで、もう二度と会えないんだと、悟った。
 それならば、もう少し話せば良かった。もう少し君の話に耳を傾けていれば良かった。君の笑う顔が好きだったのに。

 その日、夢を見た。
 最後に君に会った日の夢だった。
 君の話にも疲れて、「帰る」と言って立ち上がった。
 そんな僕を掴んできた君の手を振り払った。
 君は悲しそうに笑った。
「    」

 あの時、何を言っていたっけ?
 朝の光で目を覚ます。
 それが煩わしくて、カーテンを隙間なく閉め直した。
 もう一度眠れば、また君に会えるだろうか。
 でも、さっきの夢の、思い出せない言葉のように。きっとこうして君のことを忘れていくのだろう。


『最後の声』

6/25/2025, 10:36:40 PM

 自分が産まれたのは、自分達の繁栄の為。
 繁殖の為に、決められた相手と子を作る。それだけの為の命。
 愛なんて、知らなかった。聞いたこともなかった。
 でも、見つけてしまったんだ。
 みんなの為に働く君の姿を。美しい君を。
 決して交わることのない想いだ。それでも、ここに確かにある。
 小さな小さな体に生まれた愛だけど、この世界できっと一番大きな愛だ。


『小さな愛』

6/25/2025, 4:52:22 AM

 『空はこんなにも』かぁ……。
 うーん……? 思い浮かばないなぁ……。
 でも書くだけ書いてみよう。

 えー……。
 空はこんなにも青いのに――
 ……今日めっちゃ天気荒れてるんだよなぁ。

 気持ちが乗らない。
 純粋に頭にも浮かんでこない。
 この間もこんな感じのことを書いたなぁ。あの時は、実はもう一つちゃんとした物語もできていたんだけどね。

 全く青くない空を、窓から見上げる。
 それでも。こんな日も、たまにはいいかなぁ? たまには、ね。


『空はこんなにも』

6/23/2025, 10:39:02 PM

「子供の頃の夢……っすか?」
 話の流れで、突然そんなことを訊かれ、戸惑いながらも答えた。
「そうっすね……俺、こう見えて、小さい頃は太ってて。甘いものが好きで、めちゃめちゃ食べてたんすよ。それで、ケーキ屋になればもっとたくさん甘いものが食えるって思って」
「それで、ケーキ屋さんとか? 単純だな」
「ハイ。いやぁ、単純っすよね」
 はにかむように笑った。

「おい、着いたぞ」
 車が到着する。
 素早く降りて、トランクを開ける。
 そこには、人一人分ある大きな荷物。
「行くぞ」
 荷物を抱えて歩き出す。
 その時、荷物が動いたような気がしたが、気付かないふりをした。

 子供の頃の夢なんて、今はもう遠く。
 二度と叶うことはないだろうと、今ある現実を奥歯で噛み締めた。


『子供の頃の夢』

6/22/2025, 10:54:33 PM

 言えなかった。それが負担になるとわかっていたから。
 笑っていてほしかったし、笑っていたかった。
 いつかこんな日が来るってこと、本当は気付いていた。でも、見ないふりをしていた。
「お別れだ」と君は言った。
「また会えるよね?」と僕が言うと、君は頷いた。
 言いたかった。「行かないで」と。
 ――どこにも行かないで。ここにいて。
 でも、それがダメだと言うなら、
「じゃあ、今度は僕が迎えに行くから」
 君は笑って頷いた。
 そうして、遠ざかる君の姿に「待っててね」と力いっぱい手を振った。


『どこにも行かないで』

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