川柳えむ

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 言えなかった。それが負担になるとわかっていたから。
 笑っていてほしかったし、笑っていたかった。
 いつかこんな日が来るってこと、本当は気付いていた。でも、見ないふりをしていた。
「お別れだ」と君は言った。
「また会えるよね?」と僕が言うと、君は頷いた。
 言いたかった。「行かないで」と。
 ――どこにも行かないで。ここにいて。
 でも、それがダメだと言うなら、
「じゃあ、今度は僕が迎えに行くから」
 君は笑って頷いた。
 そうして、遠ざかる君の姿に「待っててね」と力いっぱい手を振った。


『どこにも行かないで』

6/22/2025, 10:54:33 PM