川柳えむ

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 君の声を最後に聞いたのはいつだったか。

 君から手紙が届いた。
 シンプルな便箋には、シンプルに「さよなら」と一言だけ書かれていた。

 連絡を取らなくなって、いつの間にか自然消滅していた。
 実際、君の愚痴を聞き続けるのも辛くなっていたし、仕方ないと思う。

 それにしても、今になって急にこんな手紙が届いたことが不安になり、君の住んでいたマンションへとやって来た。
 部屋はもうもぬけの殻で、どこへ行ってしまったのかもわからなかった。
 そこで、もう二度と会えないんだと、悟った。
 それならば、もう少し話せば良かった。もう少し君の話に耳を傾けていれば良かった。君の笑う顔が好きだったのに。

 その日、夢を見た。
 最後に君に会った日の夢だった。
 君の話にも疲れて、「帰る」と言って立ち上がった。
 そんな僕を掴んできた君の手を振り払った。
 君は悲しそうに笑った。
「    」

 あの時、何を言っていたっけ?
 朝の光で目を覚ます。
 それが煩わしくて、カーテンを隙間なく閉め直した。
 もう一度眠れば、また君に会えるだろうか。
 でも、さっきの夢の、思い出せない言葉のように。きっとこうして君のことを忘れていくのだろう。


『最後の声』

6/26/2025, 10:57:52 PM