川柳えむ

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「子供の頃の夢……っすか?」
 話の流れで、突然そんなことを訊かれ、戸惑いながらも答えた。
「そうっすね……俺、こう見えて、小さい頃は太ってて。甘いものが好きで、めちゃめちゃ食べてたんすよ。それで、ケーキ屋になればもっとたくさん甘いものが食えるって思って」
「それで、ケーキ屋さんとか? 単純だな」
「ハイ。いやぁ、単純っすよね」
 はにかむように笑った。

「おい、着いたぞ」
 車が到着する。
 素早く降りて、トランクを開ける。
 そこには、人一人分ある大きな荷物。
「行くぞ」
 荷物を抱えて歩き出す。
 その時、荷物が動いたような気がしたが、気付かないふりをした。

 子供の頃の夢なんて、今はもう遠く。
 二度と叶うことはないだろうと、今ある現実を奥歯で噛み締めた。


『子供の頃の夢』

6/23/2025, 10:39:02 PM