「将来、自分はどんなことをしているか。画用紙に描いてみましょう」
小学生の頃、『未来図』という題材で絵を描く宿題を出された。
将来? 何も思い浮かばないよ。
今眼の前に広がるのは今かと待ち構えている公園の遊具だし、ちょっと先の未来のことを考えるなら今日の晩ご飯はなんだろうとか、それくらい。
将来って、どれくらい先?
お母さんに相談したら「なりたいものを描けばいいのよ」と言う。
だから、わからないよ。一週間後のことだってよくわからないのに。
わからないから、適当に八百屋の絵を描いておいた。絵が上手だと褒められた。
そんな全く思い浮かばなかった未来とかいうやつに、今自分はいるんだろう。
あの頃想像もできなかった未来、将来。
ギリギリなんとか生活できている現実。とりあえず八百屋にはなっていない。いたって普通のサラリーマン。
だから、今だって考えられる未来は、明日の会議で何喋ろうかって、それくらい。
でも、未来に憧れとかなかったから、まぁこんなもんかと受け入れて生きている。もしかしたら、そうやって言い聞かせてるだけなのかもしれないけど。
そういえば、みんなはどんな未来図を描いていたっけな。思い出せない。
正確に思い浮かべられた奴なんているんだろうか? それが叶った奴なんていないんじゃないか? だって、大体の人間なんて、こんな感じで生きてるだろ?
……もし今また未来図を描けと言われても、あの頃と同じで、自分は何も描けないんだろう。
現実なんてこんなもん。
つまんない人間の、つまんない未来図の話は、これでおしまい。
『未来図』
ひとひらの言の葉が、宙を舞う。
君に伝えたその一言が、静かに君の元へ降りていく。
その言の葉を優しく抱きしめて、君は涙を浮かべながら笑った。
緑が芽吹く、春の始まり。
『ひとひら』
突き抜けるように青く晴れ渡った空に、緑の木々が映える。
そこに、ぽつんと一軒建っている小さな赤い屋根の家。
庭には色とりどりの花が咲いている。
まるで一枚の絵画のような、そんな美しさを感じるこの風景が好きで、この家を買った。この風景は、自分の物だった。
美しさと喜びに、溜め息が漏れた。
まるで一枚の絵画のような、いや、実際にこれは一枚の絵画であった。
キャンバスいっぱいに広がる風景を見て、溜め息が漏れた。
この風景が好きで、この家を買った。
今はもう見ることができない風景。空の青さえ、見られない。
核が落ち、地下のシェルターに逃げ込んでから、もうどれくらい経っただろう。
外はまだ放射能が辺りに濃く漂っていて、到底ここから出ることはできなそうだ。
それに、出たとしても、もうこの風景はなくなってしまっている。
突き抜けるように青く晴れ渡った空に、緑の木々が映える。
そこに、ぽつんと一軒建っている小さな赤い屋根の家。
庭には色とりどりの花が咲いている。
時間を潰す為に描いた、今はもうこのキャンバス上にしか存在しない美しい風景。
『風景』
1人1台、誰しもがアンドロイドを持つ時代。
アンドロイドは人間の相棒として一緒に暮らしていた――。
君と僕はとても仲良し。
僕は君のことを相棒って思ってるんだけど、君はどうだろう?
「おはよ! 今日って何か予定あったっけ?」
「今日は予定がないから、一緒にどこか出掛けようか?」
二人で一緒に街に繰り出す。
たくさんの人が行き交っている。みんな、誰かを連れている。
「やっぱり1人で歩いてる人なんて、今どきいないね」
「うん、みんな誰かと一緒。……でも、僕にとっては君が1番。他の誰かじゃなくて君と一緒がいいけどね」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ」
僕は君を信頼している。
君も僕を信頼してくれている。
「君が行きたいお店とかある? そこへ行こうよ」
「君が笑ってくれるなら、どこでもいいよ。君の『好き』をもっとたくさん知りたいんだ」
大切な相棒。君のことをもっと知りたい。
たった1人の僕の相棒。
君は僕をどう思っているかわからない。ただのアンドロイドとしか思っていないかもしれない。でも、僕にとっては君だけが全て。
他の人間なんて必要ない。この世界に君さえいればいい。君と僕さえいればいい。
『君と僕』
小さい頃に目指していたものがあった。
いつからかそんなものはすっかり忘れて、見事な社会の歯車になり、この世界に溶け込んでいる。
夢は所詮夢だった。
書きかけの物語は、机の奥で眠り続けている。
ふと、気が向いただけだった。
なんとなく思い浮かんだ言葉を物語にして、インターネットの海に流した。
それを読んでくれる人がいた。好きだと示してくれる人がいた。「面白い」と言ってくれる人がいた。
夢は所詮夢だった。
でも、今も夢は結局夢でしかないけれど、叶わなくても、形が変わってしまっても、もう一度、あの頃やりたかったことをまた始めたい。
そうして私は書き続ける。
『夢へ!』