川柳えむ

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「将来、自分はどんなことをしているか。画用紙に描いてみましょう」

 小学生の頃、『未来図』という題材で絵を描く宿題を出された。
 将来? 何も思い浮かばないよ。
 今眼の前に広がるのは今かと待ち構えている公園の遊具だし、ちょっと先の未来のことを考えるなら今日の晩ご飯はなんだろうとか、それくらい。
 将来って、どれくらい先?
 お母さんに相談したら「なりたいものを描けばいいのよ」と言う。
 だから、わからないよ。一週間後のことだってよくわからないのに。
 わからないから、適当に八百屋の絵を描いておいた。絵が上手だと褒められた。

 そんな全く思い浮かばなかった未来とかいうやつに、今自分はいるんだろう。
 あの頃想像もできなかった未来、将来。
 ギリギリなんとか生活できている現実。とりあえず八百屋にはなっていない。いたって普通のサラリーマン。
 だから、今だって考えられる未来は、明日の会議で何喋ろうかって、それくらい。
 でも、未来に憧れとかなかったから、まぁこんなもんかと受け入れて生きている。もしかしたら、そうやって言い聞かせてるだけなのかもしれないけど。
 そういえば、みんなはどんな未来図を描いていたっけな。思い出せない。
 正確に思い浮かべられた奴なんているんだろうか? それが叶った奴なんていないんじゃないか? だって、大体の人間なんて、こんな感じで生きてるだろ?
 ……もし今また未来図を描けと言われても、あの頃と同じで、自分は何も描けないんだろう。

 現実なんてこんなもん。
 つまんない人間の、つまんない未来図の話は、これでおしまい。


『未来図』

4/14/2025, 10:59:59 PM