許される筈のない恋をした。
「ごめんね」
君はそう涙を流した。
その涙は美しく透き通っていて。こんなに美しい人を泣かせて、謝るべきは僕の方なのに。
「ごめん」
そう何度も謝らないでほしい。
だんだんと惨めに感じてくる。
最初から無理だと理解っていて告げたのだ。このドロドロの感情を抑え切れなくなって、半分持たせる為に、無理矢理押し付けたのだ。
どこまでも美しく透明な君へ、この汚れた感情をぶつけたんだ。
ごめん。
そう。謝るべきは僕の方。
だって、君の色が、少しでも僕の色に濁ってくれたならば、本当はもうそれだけでいいんだ。
『透明』
好きな人に告白した。
すると、彼は「彼女がいるんだよね」と言った。
フラれた――でも、仕方ない。ショックだけど、彼女がいるのは知っていたし。わかっていて告白した。どうしようもない。
「えー……じゃあ、俺のクローンと付き合う?」
クローン。
最近自分のクローンを作るのが流行っている。
たとえば、クローンに宿題を手分けしてやってもらったり、仕事を分担したり、家のことをやってもらったり。そんな使われ方をしている。
しかも、クローンを作る際に、少し性能を弄ることもできるようになっている。頭脳明晰にしたり、従順な性格にしたり、そんな感じだ。クローンなのに、外見は同じでも性格が全然違うように作られることもある。
そんなわけで、私は彼のクローンを手に入れた。
私だけの彼のクローン。私だけを見て、私だけに優しい。
彼のクローンは何よりも私も優先してくれた。私だけしか見ない。私以外の人はどうでも良さそうだった。いや、実際どうでも良かったのだろう。そういう風に設定して作ったのだから。
でも、違った。
彼のクローンは、クローンであって、彼ではない。
誰にでも分け隔てなく優しかったのに、私にしか優しくない。彼女のことが大好きだったのに、私のことが大好きだった。
彼のクローンと一緒にいて、気付いたんだ。
理想のあなたは理想通りだけど、私が好きなのは私の理想じゃないあなただったんだって。理想じゃないところも含めて、あなたのことが大好きだった。
私は彼のクローンを手放すことに決めた。
『理想のあなた』
突然の別れだった。
知らなかった。そんなことになっていたなんて。
いろんなこと、まだ全然できていないのに。どうして。
悲しい。
私にも悪いところがあったのかもしれない。
でも。こんなのって、ないよ。まださよならしたくないのに。
プレイしてたスマホゲーが急にサービス終了なんて!
お知らせ見てなかったのが悪いのかもしれないけど! まだ全然ストーリークリアしてないのに!
悲しいー。
『突然の別れ』
――こうして、お姫様は王子様と幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
そんな幸せな物語、現実には存在しない。
近くで見つけた妥協の恋くらいしか存在しなかった。
でも、とうとう見つけてしまった。
王子様のような、素敵な存在。
だけど、それは選りにも選って、画面の向こうにいた。
まだ同じ次元に存在してくれただけマシかもしれなかった。
私はあなたに恋をした。
あなたに言葉をたくさん投げるけど、一緒にお金もたくさん投げるけど。
知っている。あなたにとって、私はたくさんの名前のないものの一つで、きっと知ることもないんだろうってこと。
いつかはきっとあなたなりの幸せを見つけて、目の前から消えてしまうんだろう。
それが、とてつもなく、苦しい。
わかっているのに。最初から、叶わない恋だということ。
お姫様は王子様と幸せに暮らせたけれど、お姫様になれない、何でもない私は、叶うことのない恋物語を終わりまでただ見続ける。
『恋物語』
特に楽しいこともなかった。
眠りたくないだけだった。寝たら明日が来てしまうから。
眠らなければ明日が辛くなるけど、それでも。
そうして迎える真夜中。
布団の中でスマホをただぼーっと眺めている。何かが頭に入ってくることもない。ただ何も意識せず、所謂「脳死で」スマホを弄っている。毎日のルーティン。
こんな毎日を過ごしている。
そして小さく溜息を吐き、瞼を閉じて、終わらせたくない真夜中を終わらせた。
『真夜中』