川柳えむ

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5/21/2024, 11:40:11 PM

 許される筈のない恋をした。

「ごめんね」

 君はそう涙を流した。
 その涙は美しく透き通っていて。こんなに美しい人を泣かせて、謝るべきは僕の方なのに。

「ごめん」

 そう何度も謝らないでほしい。
 だんだんと惨めに感じてくる。
 最初から無理だと理解っていて告げたのだ。このドロドロの感情を抑え切れなくなって、半分持たせる為に、無理矢理押し付けたのだ。
 どこまでも美しく透明な君へ、この汚れた感情をぶつけたんだ。

 ごめん。

 そう。謝るべきは僕の方。
 だって、君の色が、少しでも僕の色に濁ってくれたならば、本当はもうそれだけでいいんだ。


『透明』

5/20/2024, 10:35:26 PM

 好きな人に告白した。
 すると、彼は「彼女がいるんだよね」と言った。
 フラれた――でも、仕方ない。ショックだけど、彼女がいるのは知っていたし。わかっていて告白した。どうしようもない。
「えー……じゃあ、俺のクローンと付き合う?」

 クローン。
 最近自分のクローンを作るのが流行っている。
 たとえば、クローンに宿題を手分けしてやってもらったり、仕事を分担したり、家のことをやってもらったり。そんな使われ方をしている。
 しかも、クローンを作る際に、少し性能を弄ることもできるようになっている。頭脳明晰にしたり、従順な性格にしたり、そんな感じだ。クローンなのに、外見は同じでも性格が全然違うように作られることもある。

 そんなわけで、私は彼のクローンを手に入れた。
 私だけの彼のクローン。私だけを見て、私だけに優しい。
 彼のクローンは何よりも私も優先してくれた。私だけしか見ない。私以外の人はどうでも良さそうだった。いや、実際どうでも良かったのだろう。そういう風に設定して作ったのだから。

 でも、違った。
 彼のクローンは、クローンであって、彼ではない。
 誰にでも分け隔てなく優しかったのに、私にしか優しくない。彼女のことが大好きだったのに、私のことが大好きだった。
 彼のクローンと一緒にいて、気付いたんだ。
 理想のあなたは理想通りだけど、私が好きなのは私の理想じゃないあなただったんだって。理想じゃないところも含めて、あなたのことが大好きだった。
 私は彼のクローンを手放すことに決めた。


『理想のあなた』

5/19/2024, 10:28:58 PM

 突然の別れだった。
 知らなかった。そんなことになっていたなんて。
 いろんなこと、まだ全然できていないのに。どうして。
 悲しい。
 私にも悪いところがあったのかもしれない。
 でも。こんなのって、ないよ。まださよならしたくないのに。

 プレイしてたスマホゲーが急にサービス終了なんて!
 お知らせ見てなかったのが悪いのかもしれないけど! まだ全然ストーリークリアしてないのに!
 悲しいー。


『突然の別れ』

5/18/2024, 2:38:59 PM

 ――こうして、お姫様は王子様と幸せに暮らしましたとさ。
 めでたしめでたし。

 そんな幸せな物語、現実には存在しない。
 近くで見つけた妥協の恋くらいしか存在しなかった。

 でも、とうとう見つけてしまった。
 王子様のような、素敵な存在。

 だけど、それは選りにも選って、画面の向こうにいた。
 まだ同じ次元に存在してくれただけマシかもしれなかった。

 私はあなたに恋をした。
 あなたに言葉をたくさん投げるけど、一緒にお金もたくさん投げるけど。
 知っている。あなたにとって、私はたくさんの名前のないものの一つで、きっと知ることもないんだろうってこと。
 いつかはきっとあなたなりの幸せを見つけて、目の前から消えてしまうんだろう。

 それが、とてつもなく、苦しい。

 わかっているのに。最初から、叶わない恋だということ。
 お姫様は王子様と幸せに暮らせたけれど、お姫様になれない、何でもない私は、叶うことのない恋物語を終わりまでただ見続ける。


『恋物語』

5/18/2024, 4:48:07 AM

 特に楽しいこともなかった。
 眠りたくないだけだった。寝たら明日が来てしまうから。
 眠らなければ明日が辛くなるけど、それでも。
 そうして迎える真夜中。
 布団の中でスマホをただぼーっと眺めている。何かが頭に入ってくることもない。ただ何も意識せず、所謂「脳死で」スマホを弄っている。毎日のルーティン。
 こんな毎日を過ごしている。
 そして小さく溜息を吐き、瞼を閉じて、終わらせたくない真夜中を終わらせた。


『真夜中』

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