川柳えむ

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 好きな人に告白した。
 すると、彼は「彼女がいるんだよね」と言った。
 フラれた――でも、仕方ない。ショックだけど、彼女がいるのは知っていたし。わかっていて告白した。どうしようもない。
「えー……じゃあ、俺のクローンと付き合う?」

 クローン。
 最近自分のクローンを作るのが流行っている。
 たとえば、クローンに宿題を手分けしてやってもらったり、仕事を分担したり、家のことをやってもらったり。そんな使われ方をしている。
 しかも、クローンを作る際に、少し性能を弄ることもできるようになっている。頭脳明晰にしたり、従順な性格にしたり、そんな感じだ。クローンなのに、外見は同じでも性格が全然違うように作られることもある。

 そんなわけで、私は彼のクローンを手に入れた。
 私だけの彼のクローン。私だけを見て、私だけに優しい。
 彼のクローンは何よりも私も優先してくれた。私だけしか見ない。私以外の人はどうでも良さそうだった。いや、実際どうでも良かったのだろう。そういう風に設定して作ったのだから。

 でも、違った。
 彼のクローンは、クローンであって、彼ではない。
 誰にでも分け隔てなく優しかったのに、私にしか優しくない。彼女のことが大好きだったのに、私のことが大好きだった。
 彼のクローンと一緒にいて、気付いたんだ。
 理想のあなたは理想通りだけど、私が好きなのは私の理想じゃないあなただったんだって。理想じゃないところも含めて、あなたのことが大好きだった。
 私は彼のクローンを手放すことに決めた。


『理想のあなた』

5/20/2024, 10:35:26 PM