川柳えむ

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5/20/2024, 10:35:26 PM

 好きな人に告白した。
 すると、彼は「彼女がいるんだよね」と言った。
 フラれた――でも、仕方ない。ショックだけど、彼女がいるのは知っていたし。わかっていて告白した。どうしようもない。
「えー……じゃあ、俺のクローンと付き合う?」

 クローン。
 最近自分のクローンを作るのが流行っている。
 たとえば、クローンに宿題を手分けしてやってもらったり、仕事を分担したり、家のことをやってもらったり。そんな使われ方をしている。
 しかも、クローンを作る際に、少し性能を弄ることもできるようになっている。頭脳明晰にしたり、従順な性格にしたり、そんな感じだ。クローンなのに、外見は同じでも性格が全然違うように作られることもある。

 そんなわけで、私は彼のクローンを手に入れた。
 私だけの彼のクローン。私だけを見て、私だけに優しい。
 彼のクローンは何よりも私も優先してくれた。私だけしか見ない。私以外の人はどうでも良さそうだった。いや、実際どうでも良かったのだろう。そういう風に設定して作ったのだから。

 でも、違った。
 彼のクローンは、クローンであって、彼ではない。
 誰にでも分け隔てなく優しかったのに、私にしか優しくない。彼女のことが大好きだったのに、私のことが大好きだった。
 彼のクローンと一緒にいて、気付いたんだ。
 理想のあなたは理想通りだけど、私が好きなのは私の理想じゃないあなただったんだって。理想じゃないところも含めて、あなたのことが大好きだった。
 私は彼のクローンを手放すことに決めた。


『理想のあなた』

5/19/2024, 10:28:58 PM

 突然の別れだった。
 知らなかった。そんなことになっていたなんて。
 いろんなこと、まだ全然できていないのに。どうして。
 悲しい。
 私にも悪いところがあったのかもしれない。
 でも。こんなのって、ないよ。まださよならしたくないのに。

 プレイしてたスマホゲーが急にサービス終了なんて!
 お知らせ見てなかったのが悪いのかもしれないけど! まだ全然ストーリークリアしてないのに!
 悲しいー。


『突然の別れ』

5/18/2024, 2:38:59 PM

 ――こうして、お姫様は王子様と幸せに暮らしましたとさ。
 めでたしめでたし。

 そんな幸せな物語、現実には存在しない。
 近くで見つけた妥協の恋くらいしか存在しなかった。

 でも、とうとう見つけてしまった。
 王子様のような、素敵な存在。

 だけど、それは選りにも選って、画面の向こうにいた。
 まだ同じ次元に存在してくれただけマシかもしれなかった。

 私はあなたに恋をした。
 あなたに言葉をたくさん投げるけど、一緒にお金もたくさん投げるけど。
 知っている。あなたにとって、私はたくさんの名前のないものの一つで、きっと知ることもないんだろうってこと。
 いつかはきっとあなたなりの幸せを見つけて、目の前から消えてしまうんだろう。

 それが、とてつもなく、苦しい。

 わかっているのに。最初から、叶わない恋だということ。
 お姫様は王子様と幸せに暮らせたけれど、お姫様になれない、何でもない私は、叶うことのない恋物語を終わりまでただ見続ける。


『恋物語』

5/18/2024, 4:48:07 AM

 特に楽しいこともなかった。
 眠りたくないだけだった。寝たら明日が来てしまうから。
 眠らなければ明日が辛くなるけど、それでも。
 そうして迎える真夜中。
 布団の中でスマホをただぼーっと眺めている。何かが頭に入ってくることもない。ただ何も意識せず、所謂「脳死で」スマホを弄っている。毎日のルーティン。
 こんな毎日を過ごしている。
 そして小さく溜息を吐き、瞼を閉じて、終わらせたくない真夜中を終わらせた。


『真夜中』

5/16/2024, 10:53:08 PM

「ねぇ、私のこと愛してる?」

 彼女がそんなことを訊いてくる。
 彼が頷くと、彼女は顔色一つ変えずに、
「じゃあ死んで」
 と言った。

 いつものことである。いつものやり取り。
 彼女はこうして彼の愛を試すのだ。
 いつもは彼も、
「そう言っても、俺が死んだら悲しむでしょ?」
「俺が死んだら誰が君を守るの」
 そんなことを言っては彼女を宥めていたのだが、さすがの彼もそろそろ限界を感じていた。

「俺が死んだら満足する?」

 そうして、広がる景色へと続く柵に手を掛けた。
「え?」
 彼女は虚を衝かれたようで、明らかに動揺していた。
 幸い、ここは廃アパートの屋上。何か事件が起きてもすぐさま騒動になるようなこともないだろう。
「冗談でしょ?」
 彼女か尋ねる。
「冗談だと思う?」
 彼が身を乗り出す。
「君はきっと、俺が本当に命を懸けない限り安心できないだろう? だから、見せてあげるよ。俺が本気で君を愛していることを」
 そうして、そのまま向こう側へと飛び降りた。

 体が叩きつけられる。
「……成功かな?」
 そこには大きなマットが広げられていた。その中心に、彼の体はあった。
「大丈夫か?」
 彼の友人が顔を覗き込んでくる。
「あ~……大丈夫。さすがにこれに懲りて死んでとか言わなくなるといいけど」
 彼はそう言いながら起き上がった。

 これは彼が計画したドッキリだった。
 いつも愛を試してくる彼女にうんざりしていた彼は、じゃあ目の前で本当に死んで見せたらどうだろうか? そんなことを思ってしまった。
 だからと言って、本気で死にたいわけじゃない。疲れて一瞬そんな考えも過りはしたが、自分が死んでしまっては元も子もない。
 ではどうすればいい?
 そうだ。ドッキリだ。近くに廃アパートがあった。そこの屋上から飛び降りてみせよう。ツテのある友人に頼んで、救助マットをこっそり手に入れた。これで準備万端。あとは彼女を連れ、目の前で飛び降りて見せるだけ。
 これで少しは彼女の目が覚めるといいけど。

 愛があれば何でもできるわけじゃない。愛していると言っても限度がある。
 それでも俺は君を愛しているから、それをわかってほしい。そして君にも、俺を試さず信じて愛してほしい。
 本当は、それだけだった。

 隣で激しい衝撃音がした。
 それが何なのか理解できるまで、短く長い時間を要した。

 これはドッキリだったんだ。
 俺が本当に死ぬフリをしたら、もうそんなこと言わなくなってくれるんじゃないかと。ただ、それだけだったんだ。
 もし俺が本当に死んでしまっても、君まで死ぬ必要はなかった。心中が愛の証明になるわけでもないし。
 だって、きっと愛って、そういうものじゃないだろう?


『愛があれば何でもできる?』

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