「後悔するなら、やらずに後悔するよりも、やって後悔する方がいい」
この言葉を初めて聞いたのは、私が中学生の頃。
離任する先生が最後のお話で仰った言葉だ。
その先生と特に何か思い出があったわけではないけれど、当時の私に、その言葉はとても衝撃だった。
なんというか、とても――そう、とても腑に落ちたのだ。
考えてみれば当たり前のことである。やらなければきっとやらなかったことに後悔する。でも、やってしまえば、後悔するかもしれないけれど後悔しない可能性だってある。
そして、実際、やって後悔することは少なかった。結局、やるかやらないか迷っているのは、やる勇気が出ないからだ。あの時やらなかったのは、仕方がないことだったと納得する為に、ただやらない理由を探しているだけなのだ。一歩踏み出してしまえば、やって良かったに変わるのに。
だから私は、あの時から考えを変えて、なるべくやってから後悔するようにした。いや、なるべく後悔しない道を進むようにした。
それでもやっぱり後悔することもある。
その時は、そんなこともあるさ。と、後悔をなるべくすぐ手放すようにしている。反省したら、また次を始めよう。
『後悔』
気持ちの良い風が吹いている。
この風に身を任せて飛んでいけたら、どんな素敵な風景が待っているのだろうか。
――というようなことを考えていたら、見事その風に浚われた。
僕の体が情けない声を上げて空に舞い上げられる。
でも、高いところで見えた風景はとても美しかった。そのままその場所にいたら、絶対に見られない風景だった。
風が止んで、僕の体は少しずつ堕ちていく。
少しずつ近付いてくる地面は、僕が思っていたものとは違って、硬く、汚い地面だった。
知っている。これは、コンクリートだ。
僕は柔らかい地面の上に産まれたたんぽぽの綿毛だった。
そんな僕がコンクリートに辿り着いたらどうなってしまうんだ。僕らは土がないと生きられない。
――いや、聞いたことがある。コンクリートの間の亀裂から、植物が生えてくることがあると。そういうのを、ど根性○○と呼ぶと。それに、潰されたカエルがTシャツにへばり付いて生き残ることもあると。それもど根性○○と呼ぶと。
とにかく、根性さえあればどうとでも生きられるということだ。
僕の体がコンクリートに辿り着く。
「ど根性オォ――――!!」
こうして、僕はど根性たんぽぽになった。
僕の毎日見る景色はとても綺麗とは言えないが、僕はまた次へ命を繋いでいく。きっとその綿毛が、新しい風景を見てくれるはずだ。
『風に身をまかせ』
失われた時間は戻らない。
どうして――。
私が何をしたというのか。
下心はなかった。ただの親切心だった。
親切で助けた相手にお礼をと言われ、どうして断れようか。
しかしきっと、断るのが正しかったのだろう。
そんなつもりで助けたのではないと。ただ、助けたかったから助けた。それだけなんだと。
私は目先の欲に釣られたのだ。
そしてその結果がこれだ。
箱を開けると私は老人になっていた。何も分からぬまま。
助けた相手に、お礼と称して連れていかれた先で、贅沢を尽くした。
そして暫くして戻ってきてみれば、世の中は一変していた。時が随分と過ぎ去っていたのだ。
おかけで、家族ももう誰もいない。
絶望の中、去り際に開けないようにと渡された箱を開けると、私の若さまでも奪われてしまった。
もう何も無い。全てを失ってしまった。
失われた時間は戻らない。
どうしてこうなってしまったのか。
私はどうすれば良かったのだろうか。
『失われた時間』
大人になりたい。なんて思ったことはなかった。
大人になりたい。そういう話を子供がするって聞くけど、そんなことはなかった。私は小さい頃から大人になんてなりたくなかった。
仕事に追われ、何が楽しいのかもわからない。責任も持たなきゃいけない。そんな大人になりたくなかった。子供のままでいたかった。
そう思っても、時間は無慈悲に過ぎていく。
でも、大人になってわかった。大人は、大人じゃない。大きくなった子供だったよ。少なくとも自分は。
もしかしたら、子供という言い方は正しくないのかもしれない。だって、様々な経験を積んで、考え方も少しずつ変わってしまった。けれど、私は私のままだった。
きっと、子供とか大人とかじゃない。私は私のままだから。
『子供のままで』
「こら!」
また悪いことをしている。
壁で爪研ぎをするし、テーブルの上にも乗ってしまう。
何度も叱っているのに、どうして覚えてくれないのか。
そのくせ、怒ると、
「にゃーん」
足元に体を擦り付け、お腹を見せて寝転がる。
注意していることは覚えてくれないのに、怒られたらかわいくお腹を見せて媚びるということは覚えている……。
いい加減にしてほしい。本当に、もう……この……。
「にゃーん♡」
……うわー! もー! 好きだー!
「うちの猫かわいー!!」
何をされてもつい許してしまう。これが良くないことはわかっている。でも。
こうして、今日も下僕として生きる。
『愛を叫ぶ。』