川柳えむ

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 失われた時間は戻らない。

 どうして――。
 私が何をしたというのか。
 下心はなかった。ただの親切心だった。
 親切で助けた相手にお礼をと言われ、どうして断れようか。
 しかしきっと、断るのが正しかったのだろう。
 そんなつもりで助けたのではないと。ただ、助けたかったから助けた。それだけなんだと。
 私は目先の欲に釣られたのだ。
 そしてその結果がこれだ。

 箱を開けると私は老人になっていた。何も分からぬまま。

 助けた相手に、お礼と称して連れていかれた先で、贅沢を尽くした。
 そして暫くして戻ってきてみれば、世の中は一変していた。時が随分と過ぎ去っていたのだ。
 おかけで、家族ももう誰もいない。
 絶望の中、去り際に開けないようにと渡された箱を開けると、私の若さまでも奪われてしまった。
 もう何も無い。全てを失ってしまった。
 失われた時間は戻らない。
 どうしてこうなってしまったのか。
 私はどうすれば良かったのだろうか。


『失われた時間』

5/13/2024, 10:37:37 PM