「クリスマスだー!」
いつもの面子で集まるクリスマスイブ。ここ数年、毎年恒例になっているイベントだ。
七面鳥にシャンメリー、もちろんケーキも用意してある。
高々とグラスを掲げる。「かんぱーい!」と弾んだ声、グラスのぶつかり合う音が部屋に響く。
部屋にクリスマスソングが流れる。それに合わせて歌い出す人がいる。
料理をつまみながら、一方ではゲームをやっている人もいる。
それなりの人数が集まっているから、各々好きなことを自由にやっている。それが許される空間なのだ。
大好きな人達と、こうやって集まって騒げることが幸せだと、みんな感じていた。
今年も楽しいイブの夜が更けていく。
『イブの夜』
この日の為に、君の好きなことをいっぱいリサーチしたんだ。
君の好きな食べ物、好きな本、好きな歌、好きなアイドル、好きな服、好きなアクセサリー、好きなブランド……。
いろんなものをたくさん調べて、そして、最高のプレゼントを用意した。
そして迎えたクリスマスイブ。
キラキラと輝くイルミネーション。街に流れるクリスマスソング。
たった一人立ち尽くす僕。誘ったはずの君。
手からは一生懸命用意したプレゼントが所在無げに揺れている。
今日は仕事なかったよね? 連絡がつかないのは、何か他のことが忙しいのかな?
一応既読はついてるから、事故に遭ったとかじゃないよね。それは安心だ。
……………………うん、忙しいんだ、よ、ね。
北風が心に沁みた。
『プレゼント』
柚子はあまり好きじゃないのに、帰ってきたところに彼がゆずはちみつ茶を出してくれた。
「……柚子、あまり得意じゃないんだけど」
特にこれといった理由があるわけではい。ただ、なんとなく苦手。
テーブルに乗ったお茶からは、湯気と、柑橘の独特な香りが漂ってくる。
「そうなの? まぁとりあえず飲んでみてよ」
それなりの時間一緒にいると思っていたのに、お互いにまだ知らないことは意外と多い。これもその一つ。
知らないからって責めるつもりはない。知らないことがあるのは当たり前だから。
でも、疲れていたから、ちょっとだけ文句を言いたくなってしまった。
「だから、得意じゃないんだってば。いらない」
それでもそんな私を怒ることはなく、彼は少し困ったように笑った。
「まぁまぁ騙されたと思って飲んでみてよ」
「騙されたくないんだけど」
そう言いながら、渋々とお茶を口にする。
「……美味しい」
「でしょ? 俺特製ゆずはちみつ茶! 結構飲みやすいでしょ。……最近疲れた顔してたから。疲労回復にいいんだよ、これ」
私は、飲む前から嫌だって文句ばっかり言ってしまったのに。
彼は嬉しそうに笑ってくれた。私の様子に気付いてくれて、私を思ってくれて、こんなものを作ってくれた。
立ち上がって、彼が自分の分のゆずはちみつ茶を持ってきたところを、ぎゅっと抱き締めた。
「ごめんね。ありがとう」
柚子の優しい香りが、辺りに広がっていた。
『ゆずの香り』
いわゆる絶景と呼ばれる地へやって来た。
たしかにそこは壮大な景色が広がっていて、なんだか泣きたくなるような気持ちに駆られた。
広がる空は青く大きく、ただただ雄大な自然がそこに存在しているだけ。
心が洗われていく。いいなぁ。この景色に、自分も溶け込んでしまいたい。
大空を見上げる。
そして、空を眺めたまま歩き出した。広がる景色に足を踏み出した。
なんとなく、今なら空を飛べる気がしていたんだ。
大きく広がる空が、更に広く近くなった。
『大空』
「はぁ~……最高」
クリスマスイブの夜。目の前では彼女が酔い潰れている。家飲みだからと、甘いワインを調子に乗って何杯も飲むからである。
でも幸せそうな顔をして横になっている姿を見ると、このワインにして良かったなという気持ちになる。
「そのままそこで寝たら風邪引くよ」
起こそうと彼女の肩を軽く揺らす。
「うぅん……」と小さく呟くと、彼女はこちらに向かって両手を広げた。「抱っこー」
子供か! でもかわいい!
彼女を優しく抱き上げ、寝室へ入り、ベッドの上にそっと置く。
「おやすみ。寝たらサンタが来るかもしれないよ」
「この歳で?」
「そうそう。サンタは良い子にしてた人のところに来るから」
「……欲しいもの、あるよ」
彼女がまたこちらに両手を広げた。
その肩の下に両手を滑り込ませ、ぎゅっと力強く抱き締めた。
隣の部屋のテーブルの上には、寝ている間に置いておこうと思っていた、小さな箱に入ったプレゼントが用意してある。
まぁ、それはまた明日渡せばいいか。
欲しいもの、サンタが連れてきてくれるといいな。
遠くからベルの音が聞こえた気がした。
『ベルの音』