寂しさを感じてあなたの名前を呼ぶ。返事はない。
どうして返事をしてくれない? 悲しくなって何度も呼ぶ。それでも返事は返ってこない。
寂しさは更に増す。どうして独りなんだ。あなたはどこへ行ってしまったの。
ところで、あなたって誰?
そもそもここにいるのは一人だった。
あまりにも誰にも会わず、寂しさで狂ってしまったようだ。
『寂しさ』
冬は一緒にこたつに入ってのんびりしたい。
僕はミカンを食べながらテレビを見て、君は気持ち良さそうにただ眠って。
そんなことが、幸せだよね。
「ねー?」
こたつの中を覗き込む。
君はこちらも向かずぱたぱたとしっぽで返事をした。
『冬は一緒に』
その疑問は近いうちになくなるでしょう。世界は一つになります。
太古から現代に至るまで時間の流れは変わらないと思っていましたか。それは可変です。思い込みはよくありません。
宇宙のその向こうに別の宇宙があるように、あなたの頭の裏にももう一つ目があります。
空に浮かぶ魚が堕ちてくることはよくありますね。あれは足を滑らせただけです。
海には牛がいますよ。蛇もいます。猫はいます。深海はもう一つの宇宙ですから。
知っているでしょう。あなたも会ったことがあるはずだ。
パラケルススは「服用量が毒を作る」と言いました。これは真実です。
だから、あなたもこれ以上聞かなければいいだけの話。
「ところであなたは誰ですか?」
『とりとめもない話』
風邪を引いてしまった。
元々季節の変わり目には弱い。風邪を引きやすいのはわかっていたのに、もっと体調管理に気を付けるべきだった。
仕方なく家に引きこもってゆっくり休むことにする。あぁ、喉が痛い。鼻が辛い。息苦しい。頭がぼんやりする。
ベッドに潜り、浅い眠りについていた。それを遠くから聞こえるチャイムの音に邪魔される。
ピーンポーン……。
――待って。違うわこれ。遠くない。我が家のチャイムだ。
ピーンポーン。
ふらつきながら玄関を開ける。
そこにはよく知る人物が立っていた。
「大丈夫ですか?」
正直なところ、わざわざ誰かが自分を訪ねて来てくれるなんて思っていなかった。それなのに、そこには部活の後輩がいた。
驚きながらも、ひとまず家に上がってもらうことにした。
「風邪を引いたって聞いて。とにかく起きてないで寝てください」
――いや、さっきまで寝てたんだけどね。あなたの鳴らしたチャイムに起こされたんだけど。
とは思ったけど、弱っているからなのか、顔を見せてくれただけでも嬉しくて、それに何か言い返すこともせず再びベッドに潜りんだ。
「それにしても、びっくりしましたよ。馬鹿は風邪引かないって言うのに」
「おい、ちょっとひどいなー」
笑いながら返す。
「大丈夫です。馬鹿は風邪引かないって言う話をしただけです」
「今この流れで言うってことはそういうことじゃん!?」
「あ、そうそう。これ」
「んで、急に話を逸らすし」
「ハイ」
後輩が差し出してきた手にはフルーツゼリーが乗っていた。
「え?」
「お見舞いの品ですよ、ゼリーなら食べやすいかと思って。これでも心配してるんですから」
「……ありがとう」
思わず素直に受け取る。
だって、本当に思ってもいなかった。誰かがお見舞いに来てくれるなんて。こんな風に心配して、何かを用意してくれるなんて。
「やっぱり元気でいてくれないと……部活も物足りないですから」
風邪は辛いのに。そう言ってくれるだけで、風邪引いて良かったかも。とか、ちょっと思ってしまう。
――ダメだね。心配掛けてるっていうのに。
でもやっぱり、そう思ってくれて素直に嬉しいんだ。
「……そうだね。早く治して、またすぐに顔出すよ」
あなたのその優しい想いが温かくて、風邪なんてすぐ治ってしまうんじゃないかって、そんなことを思った。
『風邪』
雪を待っている。
冷たいけれど、キラキラしていて、世界を白く埋め尽くしてくれる雪を。
――だって、いくらなんでも12月だっていうのに暑過ぎない!?
昨夜――12月15日の夜の都心の気温を知ってる? 20℃だって。12月の夜の気温じゃないよ。実際、夜に少し出歩いていたんだけど、まるで春のような温かさだったよ。
温かいのは好き。
でも、そうじゃない。今は冬だから。冬には冬の良さがある。
外では雪が積もり、それを眺めてからこたつに潜って、夕飯の鍋を美味しく感じる。たくさんの行事も待っている。
そんな時季が来たんだよ。って、告げてくれる雪を待っている。
『雪を待つ』