川柳えむ

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12/14/2023, 10:44:45 PM

 クリスマスもイルミネーションも僕には関係なくて、ただ冬の冷たい空気が吹き抜ける。いつもと代わり映えのない冬の一日だ。
 まぁでも嫌いじゃない。
 街には浮かれた人達がたくさん歩いてて楽しそうだし、関係ないはずのイルミネーションも視界の端には映り込んで一瞬楽しませてくれる。
 クリスマスも関係ないとは言ったものの、ケーキやチキンを食べる大々的な理由になる。それに、クリスマスはYouTubeも賑わって推しが特別な配信をしてくれたりもする。
 ……いや、ごめん。関係ないなんて言って。そんなことなかったよ。
 いつも通り仕事して――あ、今年のイブは日曜だっけ? じゃあ寝たりゲームしたりして――そして配信を楽しもう。イルミネーションも、まぁイブは引きこもるだろうから見ないけれども、見かけたらちょっとは楽しむよ。
 自分の好きを楽しもう。そこはいつも通りかな。


『イルミネーション』

12/13/2023, 11:08:51 AM

 たくさん与えた方が喜ぶかと思った。
 愛を注いで、愛を注いで、溢れるほどの愛を注いで。
 そして、あっという間に枯らした。
 与え過ぎはいけないらしい。
 ごめんなさい。次は気を付けるよ。
 今度こそはちゃんと長く生かそうと、新しい子をまた迎える。
 君は何代目になるっけ? まぁいいや。よろしくね。


『愛を注いで』

12/13/2023, 12:27:52 AM

 私には心がない。
 なぜなら、そういったチップが埋め込まれていないから。

「できた!」
 博士の最高傑作となるであろうアンドロイドがとうとう完成した。
「おめでとうございます」
 得意そうな顔をした博士に拍手を送る。
 最新型のそれには、旧型の私とは違い、高性能な感情チップが埋め込まれている。周りの人間の空気を読み、正確な感情を表現するようにできている。 
「おまえも、手伝ってくれてありがとう」
 博士が私の頭をぽんぽんと撫でる。
 ――博士が喜ぶと嬉しく感じるこの気持ちも、最新型に構うのを見て寂しく感じるこの気持ちも、私の心は存在しないはずの偽物だから。ならば、感情とは、心とは、一体どんなものだろうか。

 ある日、博士が倒れた。どう見ても働き過ぎだった。そして、そのまま還らぬ人となった。
 ――どうして。心配して何度も休むように言っていたのに。もっと強引に止めれば良かった。
 どれだけ後悔してももう遅い。博士はもういない。
 最新型のアンドロイドは、博士の「大丈夫」という言葉を信じてずっとサポートしていた。感情チップがある分、あの子はきっと私よりもずっと悲しいんでいる。
 二人だけになった家。様子を窺う為に、あの子に与えられた部屋を訪ねた。
「何でしょうか?」
 何事もなかったかのように、その子は言った。
「えっ……博士が亡くなって、大丈夫かと心配で……」
「私達が動作する為のバッテリーはあと数十年交換する必要はありません。現在まだ電気も通っているので、充電も問題ありません。しかし人間がいなくなり、私達がここに存在する意味がなくなってしまいました。今後の行動を早急に考える必要があります」
「そういうことじゃなくて――悲しくないの?」
「現在、人間はいません。悲しむ必要はありません」
 博士が亡くなった時、この子はそれは悲しそうに泣いていた。私には泣く機能もないから、ただ淡々と、必要な手続きをこなすことしかできなかった。悲しく思う気持ちを押し込めて。
 ――泣けるのなら。私も思いきり泣きたかった。逝かないでと叫びたかった。今でも、博士のことを考えると、自然と出もしないはずの涙が零れそうになる。

 ねぇ、博士。あなたの望んだ感情チップは、アンドロイドは、このようなものでしたか?
 私に存在しない『心』を持つはずのアンドロイド。本当にこれは『心』だったんですか? それならば、私に芽生えたこの感情のような物は、一体何ですか? この子の人前で感情を表現できる『心』と、私のこの胸の奥に感じる『心』。一体どちらが本当の『心』でしょうか?


『心と心』

12/11/2023, 10:45:19 PM

「もしかして怒ってる?」
 ――別に怒ってないし。
 そう呟きながら、そっぽを向いたまま、目を合わせようとはしない。なんとなく合わせたくないだけ。
 別に、私以外の女にちょっかいかけてたって怒らないし。嫉妬なんかしてない。
「かわいいなぁ」
 そう言いながら、頭を撫でてくる。
 やめてよ、そうやって機嫌を取ろうとするの。
 私のことはほっといて。あの女と遊べばいいじゃない。
「ねぇ、もしかして嫉妬してくれてる?」
 違う。嫉妬じゃない。他の女が私の城を土足で踏みにじっていく感じが嫌なだけ。
「誤解だよ。ちょっと遊びに来ただけだって。友達がさ……」
 そうやって言い訳を並べるあなたに、だんだんと腹の底から怒りが湧いてくる。
 だって、誤解じゃないじゃない。実際、その女を家に上げてたよね? 遊びに来てただけって、私がいるのに他の女を上げるなんて。
 ……なんて、何でもないフリしながら、結局そうやって怒ってしまう私が、だんだんと醜く思えてくる。「かわいい」って言ってくれるけど、本当はこんなにかわいくない。だから浮気されちゃうのかな。
「どうしたら機嫌を直してくれるかな……」
 家の中を見渡して、私が興味を引きそうな物を必死で探している。
 許してあげた方が、可愛げあるかな? でも、やっぱり簡単には許せない。何を出されたって騙されないんだから。
「おもちゃは――ダメかぁ。じゃあ、ちゅーる! ちゅーるあげるから!」
 そんな物出されたって……許さないからぁ!
 ――ちゅーる美味しい!


『何でもないフリ』

12/10/2023, 10:57:37 PM

 数人だけの小さな組織で、大切な仲間達を手に入れた。
 俺達は、みんな何かの事情を抱いてここにいる。だから、お互いを信じられないことがあったって仕方がない。それなのに。仲間はみんな気さくに話し掛けてくれる。ここを心地良い空間にしてくれる。

 ――もし俺の正体を知ってしまったら。
 この組織の本当のトップは俺で、その真の目的を仲間達が知ってしまったら。みんな、俺から離れていってしまうだろうか。
 ……いや、もしかしたら、あいつらならついてきてくれるのかもしれない。
 でも、離れていってしまう可能性の方が、当然高い。だから、何も伝えない。
 たとえ仲間達がいつか離れてしまっても。この目的と仲間を天秤に掛けなければならない日が来たとしても。
 この目的を達成する為に、俺は動く。俺はこの目的を見失ってはいけないのだから。


『仲間』

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