川柳えむ

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「もしかして怒ってる?」
 ――別に怒ってないし。
 そう呟きながら、そっぽを向いたまま、目を合わせようとはしない。なんとなく合わせたくないだけ。
 別に、私以外の女にちょっかいかけてたって怒らないし。嫉妬なんかしてない。
「かわいいなぁ」
 そう言いながら、頭を撫でてくる。
 やめてよ、そうやって機嫌を取ろうとするの。
 私のことはほっといて。あの女と遊べばいいじゃない。
「ねぇ、もしかして嫉妬してくれてる?」
 違う。嫉妬じゃない。他の女が私の城を土足で踏みにじっていく感じが嫌なだけ。
「誤解だよ。ちょっと遊びに来ただけだって。友達がさ……」
 そうやって言い訳を並べるあなたに、だんだんと腹の底から怒りが湧いてくる。
 だって、誤解じゃないじゃない。実際、その女を家に上げてたよね? 遊びに来てただけって、私がいるのに他の女を上げるなんて。
 ……なんて、何でもないフリしながら、結局そうやって怒ってしまう私が、だんだんと醜く思えてくる。「かわいい」って言ってくれるけど、本当はこんなにかわいくない。だから浮気されちゃうのかな。
「どうしたら機嫌を直してくれるかな……」
 家の中を見渡して、私が興味を引きそうな物を必死で探している。
 許してあげた方が、可愛げあるかな? でも、やっぱり簡単には許せない。何を出されたって騙されないんだから。
「おもちゃは――ダメかぁ。じゃあ、ちゅーる! ちゅーるあげるから!」
 そんな物出されたって……許さないからぁ!
 ――ちゅーる美味しい!


『何でもないフリ』

12/11/2023, 10:45:19 PM