川柳えむ

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 柚子はあまり好きじゃないのに、帰ってきたところに彼がゆずはちみつ茶を出してくれた。
「……柚子、あまり得意じゃないんだけど」
 特にこれといった理由があるわけではい。ただ、なんとなく苦手。
 テーブルに乗ったお茶からは、湯気と、柑橘の独特な香りが漂ってくる。
「そうなの? まぁとりあえず飲んでみてよ」
 それなりの時間一緒にいると思っていたのに、お互いにまだ知らないことは意外と多い。これもその一つ。
 知らないからって責めるつもりはない。知らないことがあるのは当たり前だから。
 でも、疲れていたから、ちょっとだけ文句を言いたくなってしまった。
「だから、得意じゃないんだってば。いらない」
 それでもそんな私を怒ることはなく、彼は少し困ったように笑った。
「まぁまぁ騙されたと思って飲んでみてよ」
「騙されたくないんだけど」
 そう言いながら、渋々とお茶を口にする。
「……美味しい」
「でしょ? 俺特製ゆずはちみつ茶! 結構飲みやすいでしょ。……最近疲れた顔してたから。疲労回復にいいんだよ、これ」
 私は、飲む前から嫌だって文句ばっかり言ってしまったのに。
 彼は嬉しそうに笑ってくれた。私の様子に気付いてくれて、私を思ってくれて、こんなものを作ってくれた。
 立ち上がって、彼が自分の分のゆずはちみつ茶を持ってきたところを、ぎゅっと抱き締めた。
「ごめんね。ありがとう」
 柚子の優しい香りが、辺りに広がっていた。


『ゆずの香り』

12/22/2023, 10:39:21 PM