▶10.「ススキ」博士のルーツ
9.「脳裏」
8.「意味がないこと」✕✕✕の目的
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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「この土地は✕✕✕には良い所だが、ススキが無いのが残念だ」
「ススキ?煤けた木ですか?」
「お前、それ外でやるなよ」
博士が言うススキは、
野原にたくさん生える草で、
頭に金色とも銀色ともつかぬ箒がついてて、
長いから風に揺れる。
博士の故郷にしか無いらしい。
人形は目覚めたばかりで学習が追いついていないため、記憶データの再生がロックされている。
博士の話からイメージを作るしかないが、それが正しいか見てもらう手段もない。
「それは、見に行くことができるのですか?」
「遠いからなぁ」
私は無理だな、と博士は軽く笑った。
「私の生まれた国で人形づくりは盛んだった。その技術を持った私が、こんな所まで流れてきたから✕✕✕は作れたんだ」
お前の髪色はススキの穂に似せたんだ。
風になびいたら綺麗だろうってね。
そう言って博士は人形の頭を撫で、話を締めくくった。
加筆修正なう(2024/11/21 22:17:20)
▶9.「脳裏」
8.「意味がないこと」✕✕✕の目的
7.「あなたとわたし」の願い
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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カラン、コロン
とある昼下がり。ドアに付けたベルが来客を知らせる。
「いらっしゃいませー」
やる気もそこそこに顔を向けると、一人の若者が入ってきた。
「1人分で2泊頼みたい。部屋はあるだろうか」
「はい、ございます。前払い、食事無しなら銀で5。朝夕ありで6。サインをこちらに」
ずい、と台帳を押し出すとすんなりと書き始める。
「無しでいい。確かめてくれ」
支払いも手際がいい。全ての客がこうだといいんだけどな。
食事やら何やら説明し、カギを渡した。
「毎度ありがとうございます。どうぞ、ごゆっくり」
客の背中を見送り、台帳の名前をじっくり見る。
(これは…)
主人の脳裏に過去の出来事が駆け巡る。
◇
できるだけ力を入れなかったのだが、
バタン、と築年数相当の音を立てて部屋のドアは閉まった。
(あの主人は…)
もう少し期間を空けて来るべきだったか。
ひとまず旅装を解きながら考える。
人形は容姿が変えられないため、ひとつの所に長くいられない。直接関わりができた場合には、10年単位で期間を空けるようにしている。
しかし今回は、
(子供の記憶力は予想がつかない、と)
新しく得た学びである。
昨日のことを覚えていないと思いきや、30年前の出来事を覚えていたりする。
(さすが宿屋というのか、顔ではなく字に反応した)
人形が世に紛れる上での弱点。
✕✕✕は少々字が綺麗すぎる。
主人が名前でなくサインと言ったのもそうだ。
字が書けない者は自身を表わす印のようなものを持っている。
博士と過ごすのには何の支障も無かったのが災いした。
旅に出てから気づいてはいたが、
人形は抽象化が苦手であった為、作れずにいた。
(人間らしい行動、というのが誤りだったのか)
30年前、あの日。宿で出す食事の仕入れを任された少年。手間取ったとかで人出の多い時間を過ぎての夜道。物取りに襲われているところを助けた。
少年と、当時の宿屋を経営していた夫婦には感謝されたが。
正か、誤か。
人形に脳はないが、思考の隅でめぐる。
結果として、
再度主人と顔を合わせた時、30年前のことを聞かれ、
自分は当時助けた者の子だ、話は聞いたことがあると話した。
それでもと感謝され、あたたかい食事を出してくれた。
食材そのものはエネルギーにできないが、
その温かさは人形の体にしみていった。
加筆修正なう(2024/11/09 12:24:13)
▶8.「意味がないこと」✕✕✕の目的
7.「あなたとわたし」の願い
6.「柔らかい雨」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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日の出が近い時間になり、
人形は自動的に休止形態から待機形態へと移行を始めた。
宿のように一定以上の安全が保証された場所では
1度バラした自分をまた組み上げるように、
時間をかけて、ひとつひとつ異常がないか点検しつつ移行する。
その間、✕✕✕の記録や博士の記憶データが不意に再生されることがある。
人間でいうところの夢に近い。
人形は薄く作られた目蓋越しに朝日を検知し、目を開けた。
自由を求めていた博士。
人を害さず、人に害されず。
その上にある自由とはどんなものなのか。
答えが記録されていない問いに✕✕✕は答えられない。
よしんば答えを見つけられたとしても、報告する相手は既に無い。
夜、人形は情報収集のため酒屋に来ていた。
旅に必要な知識は博士の叔父のデータから入手していて、現在と齟齬がないか確認するためである。
人間と話せば、旅の目的は何か聞かれることも多い。
✕✕✕は、最初こそ自由のかたちを探していると正直に答えていた。
すると当然のように、
「それ、意味あるのか?」
と返される。酒の入った人間は容赦がない。
人形は最初こそ「意味がある」「旅は私の使命だ」などと真面目に反論していたが、革命家か何かと怪しまれることも多かったため、
今は、「世界を見たい」と答えるようにしている。
人形は安全に旅を続けるために、自分の行動について軌道修正する機能は備わっているが、
自身の存在意義について問うことは博士より「意味がないこと」として禁止されている。
今の✕✕✕は博士に禁止されているからと言って、できない訳では無いと推察している。
しかし、答えが見つかっていない問いに✕✕✕は答えられない。
人形に出来ることは、
ただ旅をして人と触れ合い
増えた記録の検証と分析を行う
これだけである。
7.「あなたとわたし」
多忙と体調不良により今回保全とします。
もっと読みたいと伝えてくださった方、申し訳ありません。
⬇
保全報告にもたくさんの読みたいを伝えてくださって感謝します。
無事に書き終えました。なう(2024/11/08 22:25:24)
▶7.「あなたとわたし」の願い
6.「柔らかい雨」
5.夜を越す為の「一筋の光」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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私の持てる全てを注いで作り出した人形。
まさか命まで持っていかれるとは…いや、
これは不養生のツケだ。
もはや旅に出られる体力はないが、
それさえ諦めれば残りを人形の仕上げに使える。
幾日も悩んだ末に、
人形の起動スイッチを入れた。
装置が作動し重低音が響く。
程なく無事に人形が目を開けた。
「おはよう、✕✕✕」
最初で最後の時を過ごそう、✕✕✕。
当初の予定より随分と短いのは許せよ。
そして共に探そう、自由を。
▶6.「柔らかい雨」
5.夜を越す為の「一筋の光」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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歩き始めた時、少しだけ雨が降っていた。
風もなく穏やかな気温のせいか、
雨の落ちる衝撃も柔らかく感じる。
✕✕✕は足を止め雨を見上げ浴びた。
雨はすぐ上がり、
人形は、また歩き出した。
博士の最期にセンサーが感じた温度のデータを再生しながら。
✕✕✕の目覚めから1年と半年程が過ぎた頃。
最初こそ試験と調整の連続だったが
その頻度も減り、人形は完成という言葉を待っていた。
だが、博士は倒れた。
(中略)
人形に医療の知識があれば、何かできたかもしれない。
✕✕✕は、失われていく命の温度を知るだけだった。
数ヶ月かけて博士の残した指示通りに書類や家を処分した後、
人形はあての無い旅へと出発した。
以下中略部分
センシティブな表現あり
だが、博士は倒れた。
その日の朝、歩行訓練と称した日課の散歩を共にしていた。
訓練という言葉が惰性に感じるほど、人形の歩き方は人間に近い。
隣を歩いていた博士の方から
ぐっ、という唸り声が聞こえ、✕✕✕は体を向けた。
その瞬間、口を手で抑えた博士の膝が抜け、即座に支える。
体が密着したところから、温度センサーが反応していく。
何度目かの咳のあと、
博士の口から柔らかい雨のようなものが降り注ぎ、
人形はそれを至近距離で浴びることになった。
(あたたかい)
その温度は人形の記録に強く焼き付く。
そろりと腕を動かして、下がっている方の手を握った。
博士の手は、冷たかった。
人形に医療の知識があれば、何かできたかもしれない。
✕✕✕は、失われていく命の温度を知るだけだった。