▶5.夜を越すための「一筋の光」
4.「哀愁を誘う」人間のフリ
3.「鏡の中の自分」 ✕✕✕のモデル
2.「眠りにつく前に」考えること
1.「永遠に」近い時を生きる人形
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✕✕✕は光を瞳から取り込んでエネルギーにするため、
瞳孔は少し大きく、黒目がちに作られている。
晴れた日中は問題ない。
しかし光量の少ない雨の日や夜は、
じりじりと消費していくことになる。
そんな人形は今夜も宿屋のおかみから蝋燭を1つ買い上げ、
一日の汚れを落としてから火をつけた。
蝋燭が燃え尽きる頃、街の喧騒も落ち着く。
そうしたら人形も安全に休止形態に移行できるだろう。
部屋の中、暗闇を照らす炎。
ベッドに入り、
姿勢維持の必要がなく炎が見やすい横臥位を取る。
目を見開いた方が光を取り入れやすいが、
人形はエネルギーの残量を確認し、瞼を半分閉じた。
この方が負担は少ない。
閉じた分だけ映像処理用のレンズも塞がれ、
蝋燭の炎は細く見えるようになった。
風は吹いてないはずなのに
ゆらり、ゆらりと揺れる。
(まだ消えないで、ご飯)
階下の騒ぎを耳に入れながら、
✕✕✕は一筋となった光を見つめ続けた。
▶4.「哀愁を誘う」人間のフリ
3.「鏡の中の自分」 ✕✕✕のモデル
2.「眠りにつく前に」考えること
1.「永遠に」近い時を生きる人形
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✕✕✕は動力を光と熱から得ている。
なので食事の必要がない。
そもそも食物という不純物だらけの物質から
エネルギーを得るのは効率的ではない。
とはいえ人間に紛れて旅をしている関係上、
食事を摂らなければならないこともある。
博士は、そこの所をよく理解していた。
ほどほどの味覚センサー
防水消臭の食物タンク
非常用の排水と焼却システム
これのおかげで、
今夜のように野宿で商隊などと一晩共にすることになっても問題ない。
火を囲む人間たちは、
時に騒ぎながら笑顔で食事を摂っている。
✕✕✕も控えめながら、それに馴染むように振舞っている。
「あの…」
近くで声がしたので顔を上げると、
一人の人間が立っていた。
「これからも…一緒に旅をしませんかっ」
顔を赤らめ上擦った声。恋愛感情を伴った発言の可能性がある。
「あ…」
✕✕✕は、ほんの少し目を見開き言葉を止めた。
少々の間を開けたら目線を伏せ俯く。
そして食事の器をじわじわ握りしめる。
「すみません…誰かと一緒には旅をしたくないんです。まだ…辛くて」
あとは背中を丸めてじっとしておけばいい。
今回も人間の方が哀しみを感じたのか、
謝罪と挨拶をして立ち去っていった。
時々しつこいのもいるが、
周りの人間が止めてくれることも多い。
今の姿を博士が見たら何と言っただろう。
記憶データから答えは見い出せない。
博士の記憶は旅に出る前で終わっている。
▶3.「鏡の中の自分」 ✕✕✕のモデル
2.「眠りにつく前に」考えること
1.「永遠に」近い時を生きる人形
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✕✕✕は旅の埃を落とすため浴室に向かった。
途中に小さな鏡があり、人形の顔が映った。
足を止め、自分の顔と向き合う。
人間と遭遇する確率が低いため表情はオフになっている。
長い旅の中で得た省エネのひとつである。
過分なトラブルを避けるために
しかし、人々との交流の一助となるように
博士曰く印象に残りそうで残らない
でも少し記憶に残る顔を目指したと。
眉は旅上手で話上手な叔父から
口元はよく笑う友人から
声は博士の不養生を叱った昔の恋人から
目元は博士自身から
記憶データとの紐付けと験担ぎとして選ばれたパーツは
それぞれ、ほんの少しだけモデルに似ている。
一人残すことになってすまない、と博士はよく言っていた。
元々は共に旅に出るつもりだったらしい。
しかし、その時に構想していたであろう肉体の顔は、
設計記録にも博士の記憶にも残っていない。
✕✕✕はデータの想起を止め、再度浴室へと足を向けた。
▶2.「眠りにつく前に」考えること
1.「永遠に」近い時を生きる人形
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寝静まる夜。
人形も修復のため休息を取る。
そうして意識が落ちるまでのわずかな時間は、
自身の行動選択の検証に充てられる。
とは言っても今まで誤りが出たこともないが。
最中、ノイズのような思考がはしる。
今日も完成しなかった
あとどれだけ
急がなければ
それが己を作った博士の記憶であると、
理解してはいるが。
人形は再度検証を始めた。
▶1.「永遠に」近い時を生きる人形
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ヴン…
機械の作動音が聞こえる。
それを自覚した✕✕✕は、
目を開けた。
「おはよう、✕✕✕」
長い時を生きる人形の目覚めの日。
(永遠と言い切った場合、早速崩壊の危機)