『時を告げる』
何故こんな事になってしまったんだろう。
俺は何の力もないただの高校生だ。
普通に平凡な日常生活を送り、友達と普通に笑い合い、彼女欲しいなぁなんて夢見るだけの何処にでもいるありふれた人間。
なのに、こんな事誰が予想出来ただろうか。
かの有名なノストラダムスだって予言出来なかっただろう。
世界の命運が16歳の少年に委ねられるなんて。
「さぁ、選ばれし少年よ。どちらかのカードを引たまえ」
目の前の男は神様らしい。しかも人間に絶望した神様。だから神様はこの世界を滅ぼして人間を消し去り、新しく作り替えたいらしい。
端正な顔をして恐ろしいことを説明してくるから冷や汗が止まらなかったよ。
けれど、理不尽に滅ぼすのは人間も納得しないだろうと人間から代表を選び、滅びか生存のカードを選ばせる事になったようなんだけど……。
世界の命運がギャンブル状態って何。
それが神様の慈悲っておかしくないか?
タイムリミットが刻々と迫ってくる。
選ばない選択は生存のチャンスを必要としないとみなされ、滅びになってしまう。
俺は絶対にどちらかのカードを選ばなければならない。
生存か滅びかわからないまま。
緊張と恐怖で手が汗でべとべとだ。
自分の心臓の音がやけに煩く聞こえてくる。
チッ、チッ、チッ、チッ……
ボーン
時を告げる鐘が鳴り響いた。
もう待ってはもらえない。
俺は意を決して勢いよくカードを引いた。
恐る恐る表を向けた俺は目を大きく見開く。
最後に見たのは神様のほくそ笑む顔だった。
『開けないLINE』
お風呂上がりに髪を乾かしているとピロリン♪とスマホから通知を知らせる音が鳴った。
スマホを手にして画面を見ると待ち焦がれた相手からの返事だった。
彼とは最近知り合って趣味が合い仲良くなったまだ友達の関係。でも私はすっかり恋に落ちていた。
なので時折来る彼からの返事を心待ちにしている。
ワクワク、ソワソワしながら早速読もうとLINE画面を開こうとしてからはっと気付きその手を止めた。
既読早い女って追いかけなくてもいいと思われない?
即返事とか重たい女だって思われない?
以前読んだコラムに書いてあった恋愛ノウハウ的な記事を思い出し、私は一旦スマホをテーブルへと置いた。
男は追いかけたい生き物。追いかけられる女になるべし。
簡単に落ちると思われるのも良くない。
LINEの返事は急ぎではない場合、最低2時間は開ける。
恋愛コラムを思い出し、うんうんと自分に言い聞かせるように私は頷いた。
今すぐ見たい!返事返したい!もっと話したい!
そんな欲望がひょこひょこ顔を出して私を誘惑するけれど、それを懸命にぐぐぐっと押し込めて耐える。
まだ開いてはいけない。
開きたいけど開けないLINE。
でも、我慢出来たのはたったの10分だけだった。
私の意思弱過ぎ。
『不完全な僕』
100年生きる僕に手に入らないものは無い。
美貌も頭脳も地位も名誉も財力も皆が欲しがるものは全て手に入れてきた。勿論力でさえも。
ある者は羨ましいと羨望の眼差しを向ける。
ある者は嫉妬の炎を滾らせ疎ましいと呟く。
ある者は素晴らしいと尊敬の念を抱く。
ある者は身も心も魅了されていく。
誰もが僕を完璧で完全だと言うだろう。
けれど、僕は決して完全ではない。
全てを手に入れても心は満たされないのだ。
100年間……ずっとを探し続けていたが見つからず、満たされない理由もわからぬままだった。
けれど今日、僕はキミに出会ってしまった。
そして気付いたんだよ。
僕が完全になるにはキミが必要だと。
だから今宵迎えに行くよ。
そして僕とひとつになってくれるよね?
キミの全てを捧げてくれるよね?
不完全な僕が完全になる為に。
『言葉はいらない、ただ……』
言葉なんて二人には必要なかった。
そんな紡がれては消えていく音に興味などない。
ただ、その温もりだけがあればいい。
相手を感じられたらそれでいい。
どちらからともなく呼び出しては何も言わずただ身体を重ねていく。
お互い求め合うように、激しく熱く……。
身分違いの二人には誓いの言葉を交わしたところで、それは決して許されるものではない。
愛していると伝えあったところでそれは虚しく響くのみ。
結ばれぬ二人。秘密の逢瀬。
言葉はいらない、ただ……
全てを曝け出し身も心も溶け合ってしまえたら
それでいい……と、今宵も甘く酔いしれていくのか。
『星空』
辺り一面焼け野原。
私が住んでいた美しい街は隣国との争いで見るも無惨な光景へと変わってしまっていた。
戦争で沢山の人が、街が、村が、無くなっていく。
昔あったモノが、人が、消えていってしまう。
なのに、星だけはいつもと全く変わらず美しく空に輝いていて。
だからだろうか。余計に今起こっている事は夢なんじゃないだろうかと思ってしまう。
現実逃避……そう分かっていても昔と変わらない星空を見上げていると平和だったあの頃に戻れるんじゃないかと錯覚を起こす。目を閉じて……大切な思い出に浸っていれば全て元にもどるのではないだろうか。
「ニアリィ」
名を呼ぶ声で私は弾かれた様に我に返った。これは現実に起こった出来事だと、目を背けるなと訴える様に彼は私を真っ直ぐに見つめた。
「……分かってるわ。行きましょう」
星空の下、生き残った数人と共に私は歩きだしていった。その先に平和な未来があることを信じて。