な子

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2/1/2025, 9:02:23 PM

バイバイ

「バイバイ」
君はいつものように別れの言葉を告げて、まるで明日も会えるかのようで、そのくせこれから何が起こるのかわかってるくせに笑顔で、私は何も言えなかった。
偉い人たちがいう世界が滅ぶとか正直どうでも良くて、それが君の犠牲でなんとかなるとか意味わからなくて、実は宇宙人なんだとか天気でも話すみたいに軽く君は言って、もうなにがなんだかわからなくて。
私がもっと大人だったら?
私にもっと勇気があれば?
なにかが変わったのかな。
「好き、だからさ」
気づけば口から言葉が漏れてて、でも独り言のように小さくて、それでも宇宙人の君は足を止めて振り返って。
「また明日も、会いたいなーなんて」
最後のほうはもう声にはなってなくて、視界が歪んできて、それが涙だってわかっていたけど、君を困らせたくなくて、私は笑って、そしたら君も笑ってて。
「そうだね、また明日」
神様がいるのなら、どうか明日がありますように。

1/31/2025, 8:36:51 PM

旅の途中

まだ旅の途中だった。なのに、そいつは現れた。
「なんでって顔してるなぁ?」
そいつは笑った。フードを目深にかぶって顔は見えないが、俺にはわかった。
「時間切れだよ」
そいつは虚空を掴んだかと思うと、そこから大きな鎌を引っ張り出した。そして、間髪入れずに俺に振り下ろす。
逃げても無駄だった。俺はただ立ち尽くす。
グサッ。
痛みはない。
薄れていく意識の中、声が聞こえた。
そいつの、死神の笑い声だった。

1/30/2025, 8:22:20 PM

まだ知らない君

君は眠っている。部屋の真ん中に敷かれた布団の中で、いびきをかくことなく、寝息をたてながら。どんな夢を見ているのかわからない。時折、笑っていた。
私はそんな君の頬に手を押し当てた。
もにゅ、という音がした気がした。肉球とは想像以上に柔らかかった。
夜勤から帰る途中だった。月が輝いたかと思ったら、身体が小さくなっていた。いや、正確にいうのなら。
猫になっていた。
家まであと少し、そして鍵の掛けない不用心な君のおかげで、なんとか帰宅することはできた。そして朝の情報番組でやっていた。何万もの人間が突然、猫になったと。
君は眠っている。
まだ何も知らない君。
目覚めた時、果たして僕だと気づいてくれるかな。

1/28/2025, 10:25:10 PM

帽子かぶって

「今日はどうしよっかな~」
クローゼットに並んだ服を眺めながら彼女は呟いた。今日は大学時代の友人たちに会うらしい。あまり派手すぎないほうがいいのでは、と進言すると笑っていた。
「帽子かぶっていけば、わからないから大丈夫」
彼女が帽子をかぶった瞬間、顔が変わる。最近はメイクではなく、帽子で顔を変えるのがブームらしい。

1/26/2025, 10:25:39 PM

わぁ!

「わぁ!」
授業中の教室にあいつの大声が響いた。けれど、教師は手を止めることなく、授業を続ける。他の生徒も同じだった。ただ俺だけは一瞬だけ、動きを止めてしまった。
「やっぱ、見えてるじゃーん」
俺の顔のすぐ横にあいつの顔があった。バレてると思った。関わってはいけない。関わってもロクなことはない。
だって、あいつは幽霊なんだから。

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