な子

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1/15/2025, 8:28:55 PM

あなたのもとへ

「どんなものでもお届けします」
そんな貼り紙を見て、私はすぐに書かれた住所に向かった。二階建ての小さな建物だった。ドアを開けると、カランとベルの音が鳴った。中は想像したよりもずっと狭かった。大きめのダンボールを二つも置けば、歩くところがなくなってしまうほどだった。
「いらっしゃい、どんなものでもお届けします」
満面の笑みを浮かべて男は言った。
「本当に、どんなものでも届けてくれるの?」
「ええ」
「住所がわからなくても?」
「お任せください」
「……いくらでもいい、これを」
私は手に持っていたくしゃくしゃになった紙を男の前に置いた。離婚届だった。結婚生活五年目にて突然消えたあなたのもとへ。私はもう待つのに疲れました。さようなら。
もうあなたとは他人になりたい。

1/14/2025, 8:25:23 PM

そっと

そっとしておいてください
彼はお気に入りのイヤホンを無くして凹んでいます
そっとしておいてください
彼は推していたアイドルに恋人がいて怒っています
そっとしておいてください
彼は飼っていた猫が死んで悲しんでいます
そっとしておいてください
彼は両親が亡くなって傷付いています
そっとしておいてください
そっとしておいてください
そっとしておいてください
そっと……
「お前になにが分かるの?」
彼は言うと、家政婦型ロボである私を、壊して。

1/10/2025, 7:59:03 PM

未来への鍵

たくさんの鍵が床にちらばっていた。迫り来る天井を横目に、私は探す。触れた瞬間に輝くとされる未来への鍵はまだ見つからない。
「はーい、時間切れ」
係員の声がした。いや、まだだ。まだ私にはやり残したことが。
「けど、見つからなかったんでしょ? 結局、あなたに未来なんてない」
そうして私は二度と現世に帰ることはなかった。

1/10/2025, 1:19:30 AM

星のかけら

「最後の仕上げはこちらです」
そう言ってテレビの中の料理人は、見た事のない丸い食材を取り出した。
「こちらを砕いて、ふりかければ完成です」
テレビの中には見たことのないケーキがあった。純白でムラのない円形は、完璧を形にしたようだった。そこにふりかけられた青い星のかけら。けれどそれはだんだんと黒くなっていく。
「この黒くなった地球が苦味を与えてくれるのですよ」

1/4/2025, 7:08:34 PM

幸せとは

幸せとは目に見えるものではなく、手に触れることも叶わない、幻のような存在だった。それを可視化し、食べられるようにしたのが、父だった。
「お前がいるだけで幸せだったのにな」
父は言った。幸せを求めて戦争が起き、街は破壊され、人々は住むところを無くした。
私の、父と過ごす平穏な日常という幸せも、気付けば無くなっていた。

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