先日彼女と花火を観に行った
生きる糧としていたそれは
始まってみれば実に寂しいものだった
夜空に打ち上がる光の花の一つ一つが
刻々と近づく終わりを知らせるようで
誤魔化すように綺麗とはしゃぐ心地だった
その帰り道君、と結婚願望の話になった
僕は君が貸してくれた冷風機を首に当てながら
「する気がまるで起きない」と呑気に言った
君は僕の答えに一笑すると
「私はいつかできたらそれでいいな」と笑った
その時僕は痛いほど知った
花火大会と同じようにこの瞬間も
いつか来る終わりに向かっているのだと
ずっと隣にいようよ
おばあちゃんになっても側に居てよ
そんな稚拙な言葉は胸の奥に閉じ込めた
幸せは苦しい、と思った
こんな僕に居場所なんてないような気がした
頭が酷く痛い
大人げなく泣いてしまったから
こんな夜に限って
どうしてあの時と同じぬるい風が吹いているんだろう
隣に君は居ないのに
ボタンを掛け違え続けてきたような
何の意味も成し得ないこの人生で
君はたった一人、聞こえはわるいけれど
本当に僕に都合の良い人間で
我儘を言うと仕方ない、と笑って赦してくれて
辛いと言うと仕方ない、ではなく
偉いねと慰めてくれて
あぁ、ねえ本当に
君の隣で生きたかった
耳が遠くなる
あの場所には帰りたくない
いつも君と話してるこの時間に
僕は泣いてる
両親と出かけて
道中はそれなりに楽しかった筈なのに
帰宅した瞬間に二人は喧嘩を始めて
どうしていつもこうなんだろう
どうして仲睦まじく出かけて帰宅する
たったそれだけの事すらしてくれないのって
子供みたいに
実際子供の心のままで泣いてる
ぼんやりしたまま作った冷やし中華は
味がまたしなかった
会社で君との話をした時
言われた言葉を嫌でも思い出す
「結婚したら終わりだよ」って
みんなそう言ってニヤニヤしていたけれど
結婚って何ですか
そんなに素敵なものには到底思えない
自分の存在ですら疑わしいのに
恋愛って一体何ですか
少なくとも僕には
君の方がずっと綺麗に映ってしまって
もう何も普通が分からない
鏡を見たら死んだ顔が映った
もう今日は早々に引き上げてしまえ
君は楽しんでね
でもあまり飲み過ぎないでね
君は酒に弱いくせに
自分じゃ気付いてないでしょう
「終わりにしよう」
君がいつかに言った言葉
結局僕らは終わらなかった
終われなかった
ズルズルと あるいは ゆるゆると
くだらない夜と約束を重ねた
僕らは向かい合っている
静かに雨の降り注ぐ中
いつも君が僕に差し出す
桜色の傘の下で
瞼を閉じて
ただ君の話す声を聴いている
僕は自棄になって君に言った
「どうしてそんなに君のことを教えるの」
君は寂しそうに答えた
「私のことを知って欲しいからだよ」
君は僕によく言った
「ねえ君はどう思うの」
僕はその度言葉に詰まった
自分の感情を言葉に出すのは
あまりにも難しいから
君はいつまでも待っていた
いつか終わりが来た時
僕はこの日々を胸のどこにしまうのかな
怖いくらい鮮やかなこの日々を
振り返る度泣きそうなほどに脆い
奇跡のような日々を
小学生の頃、冬休みの課題の中に
書き初めを提出するというものがあった
僕は書道に精通している祖母の家に丸2日通い
何十枚という数の「富士山」を書き
これならいいだろう、と太鼓判を押してもらった
1枚を手に家に帰った
母はそれを見るなり酷い顔をした
名前の書き方がおかしいから書き直せ、と
気付けば目の前にはもう見飽きた
習字セットが広げられていた
僕はひどく疲れていたので気力もなく
ぼうっと硯の上で筆を遊ばせていると
突然母に殴られた
その後泣きながら書いた1枚は
特選に選ばれ、県から賞状を貰った
母は自分が殴ったからとれたのだと笑っていた
当時の僕はクラスから浮いていたので
陰で何かを言われた気がしたが
そんなのどうでも良かった
あんな紙屑燃えてしまえ、と思った
優越感なんてものはどこにも無かった
今でも時折この出来事を思い出す
多分もう消えることはない
僕の中の黒点の一つ
ひどく睨んでくる黒点の一つ