NoName

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5/3/2025, 12:58:55 PM

「まって、いかないで」

手を伸ばして、去ろうとするその足をとめる。
一瞬立ち止まってくれた足は、少し時間を置いてから前を向いて歩き始めてしまう。
「なんで」
そう小さく呟いても、何も聞こえなかったかのように君は、足を止めてくれなかった。
青色が好きで、トレードカラーはもちろん青。
青ぺんぎんのキーホルダーを鞄につけてる君は、作るのが苦手な笑顔をいつもこっちに向けてた。
定期的に服から垣間見えるようになる包帯と、ガーゼ。
理由を聞いても、怪我しやすいんだよね、ドジだから。なんて言って笑ってたけど、それも嘘だったんだよね。きっと、そうだよね。
「ごめんね」
自分が何も気づけなかったから。おかしいよ、君は何も悪いことしてないのに。


「ごめんね」
なんで君が謝るの?君は何も悪いことしてないのに。自分が不甲斐ないだけなのに。
君といる時間はとっても楽しい。
ひとりでいるときよりも、家にいるときよりも。
君のゼンブが、俺の宝物だよ。
一緒にショッピングに出掛けて、そこでみつけた青色のペンギンと、白色のパンダのキーホルダー。せっかくだからって、お互い相手のキーホルダーを買って、プレゼント交換なんてした。その時の君の弾けるような笑顔は、見惚れてしまうくらいに凄かったんだからね。
そこからは、青色のペンギンのキーホルダーを鞄につけて、毎日過ごした。息が詰まりそうになるくらい辛かった場所も、このキーホルダーのお陰でなんでもできる気がして、心強かった。キーホルダーが絶対に傷つかないように、取れないように、大事に扱った。人とプレゼント交換をするなんて初めてで、嬉しかった。
ある日、運悪く顔面を殴られて、湿布をつけて君に会いに行ったときは、大きな目をまんまるに開いて、驚いていた。大丈夫なの、と泣きそうになって焦って聞いてくるもんだから、思わず笑っちゃったよ。でも、そんな君が好き。心の芯から優しい人なんだなってわかるからね。
俺は、君のせいだなんて一ミリも思ってない。
そんなはずないでしょ。
君のお陰で俺は、あの地獄から抜け出せたんだよ?
だから、お願い。ずーっと、君のままでいてね。


「ごめんね」
そういうと、君は振り返って、僕を見つめた。
いつもの、苦しそうな笑顔なんかじゃなくて、心から笑ってる笑顔。あぁ、これだ。俺は、君のそんな顔が見たかったんだよ。もう、苦しくないんだね。よかった。
ゆらゆらと軽やかに揺れる、笑顔の青ぺんぎんと、君の笑顔を見比べる。
「…嘘嘘。僕がそんなの言うわけないでしょ?」
「言うけどさー、やっぱ、笑顔つくんの下手だね」

君って、やっぱり青い。





5/2/2025, 10:18:37 PM

「甘っ…」
壁に滴る、よくわからない甘い液体。
どうしてなのかは知らないが、それが無性に気になってしまって、それを指にとって舐めた。
とにかく甘かった。ガムシロップなんかよりも、甘い。
アブナイ液体かもしれないのに、それを舐めた俺は馬鹿なのかと思う。でも、仕方なかった。いつのまにか舐めていたんだから。
「…んー、どうする?」
そもそもこの空間はなんなんだ?
俺は、自分のベットで寝ていたはずなのだが。
起きたらここにいて、そしたら壁から液体が垂れてきて。
尚更意味がわからない。

「お腹すいた」
寝る前には夜ご飯をたっぷりと食べたはずなのだが、お腹がすいてたまらない。
抑えきれなくて、また液体を舐めた。

少し時間が経った頃だろうか、あれから結局液体を腹一杯まで舐めた。液体なので、固形物とはさすがに満たされる差はあるけれど、初めよりは楽になった。
「…なんか、頭おかし」
舐め始めてから、頭がおかしいのだ。
ふわふわとするような感覚。
上手く言えないけれど、飛べるような、そんな感じ。
…眠たくなってきてしまった。
こんな、どこかわからないところで寝るだなんて。
「…ん」
まあ、その時はその時だろう。
おやすみ。

4/30/2025, 10:07:52 AM

「何このあと?」
アイスクリームを貪りながら歩道を歩いていた。
そこで、よくわからない跡を見つけた。
自転車の跡でもない、なにかで削られた跡でもない。
ここは歩道だから、自動車は走れない。
おかしいよね、ここで何かあったのかな。
「あ、最悪」
跡のことを考えていたら、アイスクリームが落ちた。
残念、高かったのに。
「いいや、もう。帰ろ」
コーンだけを口に放り込んで、散歩できた道を帰った。

また、同じ道を通った。
跡がどうなったのかとかじゃなくて、偶然道が同じになったってだけ。
「…あ、」
下を向いたら、またあの跡があった。
全然変わんないけど、その横に変な跡ができてた。
たしか、ここでアイスクリーム落としたような。
え、じゃあこれアイスクリームの跡?
なにそれウケる。

4/29/2025, 10:36:18 AM

「待てって!」
好きになれない。誰彼構わず色々な人と隔てなく、仲良くしていて。自分みたいな、角で陰気をかましている俺にさえウザいほどに構ってくる。
「…なんだよ。お前、なんで俺に構ってくるんだよ」
眉を寄せて、いかにも不機嫌という顔をしてやると、目をキラキラさせる。意味がわからない。馬鹿なのか?
「だって、お前気になるんだもん!」


「は?お前何言ってるんだ」
嫌いになれない。俺は、みんなのことが嫌い。そもそも好きにはなれないし、関わっているうちに、人間の汚さのようなものが目に見えて、気持ち悪くなってくる。
「だから、気になるんだって、お前のこと!」
それなのに、どうしてなのかお前のことは嫌いになれないんだ。こんなの初めてで、よくわからない。
お前だけが、きらきらしているように見えるんだ。
「…意味わからん」
どうしてなのかな?

4/28/2025, 11:08:13 AM

「…あ?」
ここは、何処だ。確か、さっき病院内を歩いていたはず。
それだというのに、多分ここは病床の上。
「なにこれ…」
気怠い体を起こして、周りを見渡す前に目に入ったのは、自分の腕に繋がれている沢山の点滴。
痛くはないけれど、点滴を繋がれた経験はないから驚いた。
「てか、ここ普通のとこじゃなくね…?」
驚くのもそこそこに、ようやく周りを見渡すと、そこは普通の病室ではなかった。集中治療室、ではないが、それなりに拘束具やベルトなどが置いてある部屋。
見れば見るほど恐ろしく、不気味でたまらない部屋だが、何故自分がここに寝かされているのか、不思議で仕方ない。
「あ!ようやく起きましたか」
ガチャ、という音を立てて部屋に入ってきたのは、長い髪の毛で片目を隠しているターコイズブルーの目をした男。
こいつも不気味で気持ちが悪い。
「お前、誰」
警戒心マックスでそう告げると、男は持っていたカルテを近くの机に置いて、隣に置かれていた注射器らしきものを手に取った。
「まあまあ、そんなに警戒しなくても、危害は加えませんよ」
「ここに拘束してる時点で、お前危害加えてるようなものだろうが」
「…それもそうですか」
キラキラと輝かせていた男は、一瞬で目の輝きを消した。
そして、そのまま近づいてきて、点滴袋にそれを刺した。
「…頑張りましょうね」
「クソが…」
あぁ、次目覚めるのは夜明けになるのかな。

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