前回に比べると重さが段違いなので注意。
「お前は、もう違う」
そんなことを言われて、困ったのは俺だった。
久しぶりに会えて、嬉しくて、また一緒にいれると思ったんだけど。
オマエは、そうじゃなかったみたい。
いや、オマエがそうじゃなかったんじゃなくて、俺がそうさせたんだろーな。
あの日、珍しくイラついてて。
平和主義なことを長所にしている俺が、オマエにいろいろなことをいった。例えば、面倒臭い、とか。もういい、とか。
その時のオマエの傷ついた顔は、今でも頭から離れないよ。
でも、あれはオマエが嫌いになった訳じゃなくて、このままでいたら、俺たちきっと何もできないと思ったから。今思うと、それでも俺は怒っていたのかもしれない。
その後、気付いたんだ。オマエが俺に言われた時の衝撃が、ようやくわかったような気がした。
俺、オマエに非道いこと言ったなって。
謝らなきゃ、伝えなきゃって。
ずっとそう思ってて、でもそうするためには、まず俺が強くならないといけなくて。
だから、まだオマエとはあえない。そう思ったんだよね。
毎日同じことの繰り返し。つまんないことしかしてなかった俺に、希望をくれたのはオマエだよ。オマエは、俺にとって全てだ。オマエがいないなんて、意味ないよ。ふとした瞬間に、「オマエは何してるんだろう」とか、「元気にしてるのかな」「また会ったら何しようかな」とか。そんなことしか考えてなかったんだよ。
ねえ、だからそんな顔しないで。
俺、オマエがいないとだめだよ。
なんでもするから、隣においてよ。
おねがい
「どんだけ離れたって、俺ら一緒だよ」
そんなことを言っていたアイツは、すぐに俺から離れていってしまった。約束してきたのはそっちだったのに。
アイツの言葉通り、いつかはまた一緒になれるかもしれないと思っていた。だから、待っていた。
それは、ただの俺の願望でしかなかった。
アイツは、もう他の奴といる。もう俺のところへは戻ってこない。おれの隣には、もうアイツはいない。
アイツには、届かない。
別れ際、アイツは怒っていた。想像以上に非道いことを言われたし、もういい、めんどくさいとも言われた。
散々そんなことを言われたのに、まだ戻ってくるかもなんて馬鹿なことを思っていた俺が哀れすぎて、笑えてくる。
それでもやっぱり諦めきれなくて、努力して強くなった。
人間としても、強くなれた。
久しぶりにアイツの前に立った。
アイツは何も変わっていなくて、変に安心をした。
当のアイツは、何にも興味がなさそうにして俺に関心をなさない。やっぱり、アイツはもう俺のことをどうでもいいと思っているらしい。まあ、会った瞬間からそう思っていたのを、おれが知らないフリをしていただけか。
「…もう、いいか」
そろそろ、俺も諦めどころだ。
これ以上固執していたって、どうにもならない。
無駄な時間だ。アイツはもう俺を忘れて前を向いているのに、俺はまだアイツを忘れられない。
そんなのは、不公平だ。
だったら、俺も忘れてやる。
もう、俺の人生にアイツはいらない。
俺の隣に、アイツはいらないんだ。
「誰?」
「…会ったことないはずだよ」
「だよね。俺、君のこと覚えてないもん」
「会ったことないんだから、覚えてるも何もだろ」
「…ぁあ、確かにね」
「うん。…行かなくていいのか」
「…?どこに」
「ん」
「…、なにあれ」
「わからん」
「知らないのかよ」
「そりゃそうでしょ、俺だってここ来たの初めて」
「あ、そうなの?」
「うん」
「じゃー、仕方ないか。…きみは?きみは、いかないの」
「…俺は行けないんだ」
「?なんで」
「…いいから。早く行けよ」
「そんな急かさないでよ」
「早く行かないと、戻れなくなるぞ」
「?なにいって」
「早く行けって」
「うぉっ!?押すなし!」
「…うるさい、お前が悪い」
「なんで、だよ!もー、!」
「…またね」
「またねっ!!?」
「…はー、辛」
「影絵ってなに」
「しらん」
「え、誘ってきてたのそっちだよね」
「調べてみないとわからんだろ」
「自由すぎん?」
「うるさい黙れ」
「メンタル不安定ですか」
色々注意
私は、好きになってしまった。
腰あたりまである長い黒髪、背が高めの華奢な身体。
白い肌色に長い睫毛。
その姿を目にした瞬間、私は心を奪われた。
そこからは、ストーカーみたいに目で追ったり、自分なりにあの子の頭に残るように頑張ってみたけど、あまり効果はなかったみたい。
自分は、あそこで騒いでる陽気な奴みたいにはなれないから、できることは限られていた。
私が衝撃を受けたのは、雪がようやく溶けてきた頃。
騒がしい生徒玄関で、靴箱からローファーをとりだして踵をコンクリートに叩きながら帰ろうとしていたときだった。
「あの、すみません」
背後から聞こえてきたのは、鈴のような美しい声。
一瞬で、あの子だとわかった。
顔が歪みそうになるのを抑えて振り向いた。
「…はい、どうかしましたか」
「えっと、これ…落としてませんか?」
差し出されたのは、お気に入りのシャープペンだった。
記憶を引きずりだしていると、彼女の困惑している表情が目に入ったので、胸が痛くなりすぐさま返事をする。
「これ、私のです。すみません、どこで拾いましたか?」
「あそこの廊下で置いてあって…」
「ありがとうございます、これお気に入りなんです」
何年も使っているから手持ちの部分が薄汚れているが、書き心地もよく、母からもらった大切なものだ。
「そうなんですね」
微笑む彼女の顔は、パーツが全て整っているからかとても輝いて見えた。
「はい、お礼になにかしたいんですけど」
これは建前。本音はもっと一緒にいたいから。
「…じゃあ、我儘言っても良いですか?」
「いいですよ」
「一緒に、ご飯行きませんか…」
顔を赤らめていう彼女をみて、さすがに頬が緩んだ。
バレてないと良いけど。
「もちろん!いきましょう」