「ねーねー」
突然、授業中に隣の席のやつから声をかけられた。
「…なんや、今授業中やで」
「もー、つれないな〜」
さすがに授業中に大きい声で話すのは、たとえ自習時間で先生が居らず、周りが話しているからって好ましいものではないだろう。
「で、なんなん?」
目を合わせることなく開いていた教科書類をまとめてながら適当に返すと、視界にいなかったはずのコイツが急に入ってくる。
「あのさ!これ、書いた?」
そう言ってヒラヒラさせながら俺に見せてきたのは、一枚のプリント。ずっと持っていたのか、持っていた部分が少しクシャクシャになってしまっている。
それを受け取り、一番上から目を通していくと、そこには『未来の自分』と書かれていた。
「なんやこれ、まだ書いてなかったん?」
確か、このプリントの期限はもう数日過ぎていたはずだ。
提出期限厳守と言われていたので、みんな提出したものだと思っていたのだが。
「うん、センセーに確認したら仕方ないから明日までにって」
「はぁ…ジブンきちんとせえや」
わざとらしいため息をすると、コイツはぷくーっと頬を膨らませ、目を細めた。
「だって、わかんないんだもん。仕方なくなーい?」
コイツはいつも自由すぎるのである。
チャラ男で、女ったらしで、よく違う女と歩いている。たまーに顔に赤いあとをつけて来るので、ざまぁ、と思っているのは秘密。
そのくせ、英語だけの成績はいいのだが、それは担当先生が美人で爆乳の可愛い子だからだ。他はボロクソ。
このプリントを担当しているのは、美人とも言えないが、それなりに乳がデカい女なのでコイツが味をしめ、根気よく声をかけていたら、ころりと落ちてしまったらしい。それからは、特にコイツにだけは甘いのだ。
男の俺が聞くと馬鹿らしくて敵わないが、女からすると違うものなのだろうか。
「はいはい、何で俺に聞くねん。はよかけや」
うざったらしく、俺の視界の前で揺れるプリントを手でよけるとその代わりにコイツの顔が現れる。
「だから!助けてほしいって言ってんじゃん」
そんなこともわかんないの、この鈍感!と言われ謎に腹が立つが、コイツと付き合ってればそんなの日常茶飯事なので、キレはしない。
「俺はもう提出したわ、何書いたのかも忘れた」
これは本当だ。未来なんてわからないのだから、何を書いたら良いのかわからなかった。ただ、とにかく提出期限を守るためだけに書いた。だから、内容はあまり覚えていない。
「ちぇー、つまんねー」
あきらかに不機嫌そうな顔をし、やっと自分の席に戻ったのかと思えば、肩に手を置かれ、ぐいっと寄せられる。力が弱いわけでもないので、できれば早く話してほしいのだが。
「じゃあさ、今度昼飯奢るから。手伝ってくんね!?」
妙に目をキラキラさせて、そう言われてしまっては流されやすい俺には、致命傷となるのだ。
「…はー、仕方あらへんなぁ」
そう言って、椅子をずらすとコイツは目を大きくして
「まじ!?ありがと〜!」
って言って笑った。
「うわー、すげえ綺麗」
「ホントじゃん」
今日は、二人とも暇で何もすることがなかったので久しぶりに僕の家近くの公園に訪れることにした。
公園なんて幼稚園児でもないからきてなかったけど、ひさびさにくるとやはり何か来るものがある。
「前はこんなのなかったよね」
そう指をさす先を見ると、一台の滑り台があった。
「確かに」
滑り台なんて、公園にあるものの中では定番だろうが、なぜかこの公園には滑り台がなかったのだ。
今思うと気になって仕方がない話だが。
「最近出来たのかな」
指先で軽く触れると、錆もなく、さらさらとした触り心地のいい新品のような滑り台だった。
「そうかもね…ねえ、滑らない?」
「お、やっちゃう?」
幼稚園児でもないけど、まだまだ子供なんだから、滑り台したって何ら不思議なことではない。
むしろ、滑る奴だって多いだろう。
「よし!いくぞー」
「こい!」
腕を上げて、うわーとわざとらしく声をあげながら滑り落ちるのをみてると、なんかほわほわしてくる。
なにこれ、何現象??
ま、どーでもいいか
「君って、変なとこあるよね」
「…俺?」
「うん」
雨が降り続ける日、急にそんなことを言われた。
「え、何急に?怖いんだけど」
「いや、別に…」
俯いて、足元の石ころを転がしながら唇を尖らせるソイツは、なんだかかくしごとをしているようにみえた。
「…ねえ」
「、なに」
手首を軽く掴むと、急な衝撃で驚いたのか肩をぴくりと震わせ、おそるおそるこちらを見る。
「なんか、隠し事してるんじゃない?」
ソイツは目を大きくして、石像みたいに動かなくなった。
「…そっちこそ、急に、何」
変な言い方をして、俺の手を振り払って睨みつけた。
「だって、いつものお前じゃないから」
「…なんだよ、いつものって」
ほんとだ。本当に、今日は調子がおかしい。
いつもだったら、ふざけて肩叩いて笑うような奴なのに。
じゃあ、なんで?
考えるのもめんどくさい。
勉強以外にはできるかぎり頭使いたくない。
それなのに
「…またこんどでもい?」
「は?」
財布をとりだして、近くに刺さっているビニール傘をとりだすと、びっくりした顔をして覗き込んできた。
「だから、また今度でもいっかって」
「…なんの話かしんないけど、別に良いよ」
傘を開く
「じゃ、かえろーぜ」
まあ、俺とお前なら、なんとかなるよね
どーにかなるでしょ
えー、今スマホを眺めているそこの君!
そう、君だよ。
せっかくだから、君に聞いて欲しいことがあるんだ!
こんな生活をしていると、話し相手なんて居なくてね。
俺たちは医者をしているんだけど、なんといっても新しい病原体を開発して人々に感染させ、それに適応したワクチンをつくり金儲けをするという医者なんだ!
どう?お金稼ぎにピッタリだと思わない?
俺たちは優秀すぎるが故に、仲間にも手放され、おたがい途方にくれていたときに出会ったってワケ。
あ、紹介をしてなかったね!
俺の相棒、×××。
俺と同じく優秀で、俺よりも医学の知識量がすごいんだ。
俺とあいつでは、得意とする分野が違うからそれぞれ自分の活かすべきところを活かせているんだ!
とってもいい関係でしょ?
まあ、あいつは今隣にいないんだけどね
約束をしたんだ。
え、どんな約束だって?
それは言えないよ、俺と相棒のふたりだけの秘密!
俺はずっと待ってるんだ。
だって絶対に約束は守ってくれるから。
え?なんでそう思うのかって?
そんなの簡単さ!
あいつは、俺の相棒だから
「ん、花」
「花…?なに、プレゼントでも言うんか」
「そうだけど」
「俺サプライズとか苦手って言うたやん」
「そうだけどさ」
「こーゆーのどうやって反応したらいいか分からん」
「別に、ありがとうで良くない?」
「俺そんな反応できないねん」
「まあ、アンタ反応薄いもんね」
「それただの悪口やろ」
「事実です」
「そうかもしれへんけど」
「これね、ドライフラワーにしてもいいんだって」
「ドライフラワー?あぁ、あの乾いた花か」
「もうちょっと言い方あるでしょ」
「…ふーん、そうなん」
「あ、話逸らした〜」
「うっさいわ」
「拗ねないでください」
「拗ねてません」
「うっそだあ」
「嘘じゃないわ、はよ歩け」
「歩いてるジャーン」
「はあ…」
「ま、ありがとさん」
「大切にさせてもらうわ」
「エッ」
「…なんや」
「アンタが、礼言うなんて…」
「阿保か、それくらい躾けられてるわ」
「躾けられてるわとかやめて??ちょっと語弊ある」
「ちょっとじゃないやろ、こんなん語弊にもならんわ」
「いやなるから」
「…ま、大切にしろよ!」
「そう言ってるやんけ」
「俺が一時間かけて選んだんだからな!」
「…それは大切にしなあかんな」
「当たり前!」