キラッキラで、ピッカピカ
あのとき感じた輝く姿が今でも忘れられない。
夢にまでみた、なんて安い売り文句では足りないし。憧れは憧れのままがいい、なんてただ眺めて終わるにはあまりにももったいない。
目でみて、効果音も覚えるくらい聞いて、写真も絵もプロの作品でも自分が撮ったり描いたりしたものでも溢れる輝きの欠片はいつだって僕の中で生きている。
同じ場所に立つこと考えたことはない。
それは応援することに意味があって、自分がその中に混ざることは憧れた世界を現実で汚すことになってしまうからだ。要するに推しは推すための存在だってこと。
強要なんてしない。推し方は人それぞれだから。
どんな方法であれ、犯罪は絶対に許せないけれど、あの輝きに魅了された同士であることは間違いない。
同じものを好きになって推すこと、それだけの共通点があれば十分だ。
だから、推しの訃報が流れたとき思った。
『ああ、星が溢れてしまった』
星自体が輝きを失い、日の光すら反射させることもできないほど崩れてこの世界から溢れてしまった、と。
目の前を照らす光も、道標もなしにこれから生きていかなければいけないのだ。過去となってしまった暗い欠片に背を向けて進まなければいけない。
残酷でいて、長い目でみれば単なる優しさの一つになってしまう時の流れが恨めしい。
僕の青春時代にパッと現れて、共に枯れていくこの気持ちは誰にもわからないだろう。半身を失ったかのような空虚を背負って過去にしていくこの気持ちを。
星は溢れないで、輝いていてほしかった
【題:星が溢れる】
ピコン、ピコン、うるさい。
昔からの友人も、今の学校でできた友だちも誰も悪くない。わかってる。わかってるけどさ。
スマホの画面は複数人から送られたメッセージの通知でいっぱいだ。好きなゲームやアラーム、配信の通知が埋もれて、代わりに無機質な文字だけの「大丈夫?」が並んでる。
絵文字がなんだ、スタンプがなんだ。どれだけ飾ったところで本当に私の体調を心配している人なんていないじゃない。
私だけ弾かれたグループがあるのを知ってる。SNSでも他のアカウントを使ってまで私を除け者にしてる。
学校で流れる噂も、あのとき集まった人しか知り得ない情報も、全部ぜんぶ「友人・友だち」を騙った悪者が広めているの。
SNSはブロックした上でアカウントを消そう。
トークアプリも履歴を消してブロックするんだ。
本当はアプリごと消してしまいたいけどそんなことをしたら私の生活まで壊れてしまう。だからいらない人だけ弾いたの、私がそうされたように。
ああ、壊れていく。狂っていく。
矛盾だらけで、短絡的で、自分本位。指先一つですべてを消せる薄っぺらい関係。スマホがなかったら生まれなかった友情といっそ死んでしまいたいほどの憎悪。
嫌い、嫌い嫌い。みんな大っ嫌い。消えてしまえばいいのに。
――――――
「どうしたの、体調悪い?」
「…ううん、ちょっとボーッとしてただけ」
ねえ、私たちはいつまで友達でいられるかな。
この平穏な日常はいつまで続くのかな。
今度こそ、ちゃんとした「友達」でいようね?
【題:平穏な日常】
「月が綺麗ですね」
少しの期待を込めて言ってみた。
きっとこの言葉の意味など知らないだろうから。もし知っていたとしても返しの言葉は文字通り死んでも言わないだろう。
夜毎、あちらこちらへ転々としている人だから。この言葉も想いもなんの枷にもなりはしない。
それでも勝手に囚われてどこにも行けない私には、やっぱり捨てられない大切なものなのだ。
「月が、綺麗だな」
ほらね、予想通り。ほんのりとした期待が霧散するのなんてわかっていたことだ。
この人以上に死を恐れる人はいないでしょう。何と引き換えにしても生きることを諦めない人だもの。
「ごめんなさい、あなたのほうが綺麗ですよ」
生きることに必死になる姿はとてもとても眩しい。
何もかも投げ出して諦めた私にはとても眩しい。光に吸い寄せられる羽虫のように、私はこの人を求めて群がる女たちの一人だ。
欲望は人を輝かせる。月はただのおまけ。
でも私は、この人の月でありたい。月は一人では輝けないからずっと側にいてほしい。こんなこと言えやしないけど。
【題:月夜】
なんてことはない、いつも通りだ。
そんなふうに自分に言い聞かせて灰色の日々を過ごしてきた。ときどき眩しく輝く人やものに出会うと少しの間私の世界は色鮮やかになる。
たったそれだけのことを楽しみに生きて、生きて、生きた。隣に同じような生き方をしてる仲間がいたからそれも励みになった、こともあった。
いつか別れがやってくる。どれだけ似かよった部分があっても違う人間なのだからしかたのないことだ。
でもこんなにも、天と地ほどの差が生まれるほど。私とあの子とでは何が違ったのだろうか。
悔しいとか、妬ましいとか。周りはみんな私があの子に嫉妬しているといって指をさして笑う。真っ黒なペンキで顔を塗りつぶされた有象無象の笑い声が鬱陶しい。
私の世界がどんどん暗くなって、気がついたら薬まみれになっていた。
でもね、あの子は違った。
昔から変わらない優しさを持ったまま、さらに輝きを増して素敵なパートナーまでみつけてる。眩しく輝く人になったあの子は私の世界を鮮やかにしてくれる。
今日も花束をもって会いにきてくれたあの子のおかげで花の色がみえるの。
この繋がりだけはなくしたくない、なくしたくないの。
【題:絆】
太陽の方を向いて咲きほこる大輪のひまわりを3本。
シンプルにリボンで纏めただけの花束だ。飾り気は全くないが、光を浴びて輝く存在感はさすがだと思った。
思わずカメラを構えてしまったのは、ひまわりの存在感だけが理由ではない。花束と同様、シンプルな白いワンピースをきてアクセサリーやメイクで飾らない少女が花束を抱えて立っていたからだ。
たったそれだけ、それだけだ。
飾りたてたモデルなら会場内にたくさんいたのに撮りたいと思ったのはその少女だけだった。目線はカメラに向くことはなく、画角の外、画面の左端をみつめて静かに立っている。
そのときの写真は入賞して大手企業のポスターに起用されることになった。
多少加工は施されたようだがほとんど撮ったときのままポスターにされていた。そこでようやく気づいたのだが、光源や花束の向きは右側に集中しているのに対して少女は何もない左側を振り返っていた。
視線の先には深い藍色の影があって、画像なのにゆらりゆらりと揺れているようにみえる。水面の影がゆっくりと波打ち、少しずつ満ちていくような感覚に陥る。
そういえば、あのモデルはどこの誰だったのだろうか。
ポスターのサンプルを眺めて考える。会場やモデルは企業側が手配していたはずなのにこのポスターのモデルのことは誰にきいても知らないといわれる。
もしかして幽霊かなにかだったのだろうか。
不思議な君は、今、生きているの?
【題:君は今】