太陽の方を向いて咲きほこる大輪のひまわりを3本。
シンプルにリボンで纏めただけの花束だ。飾り気は全くないが、光を浴びて輝く存在感はさすがだと思った。
思わずカメラを構えてしまったのは、ひまわりの存在感だけが理由ではない。花束と同様、シンプルな白いワンピースをきてアクセサリーやメイクで飾らない少女が花束を抱えて立っていたからだ。
たったそれだけ、それだけだ。
飾りたてたモデルなら会場内にたくさんいたのに撮りたいと思ったのはその少女だけだった。目線はカメラに向くことはなく、画角の外、画面の左端をみつめて静かに立っている。
そのときの写真は入賞して大手企業のポスターに起用されることになった。
多少加工は施されたようだがほとんど撮ったときのままポスターにされていた。そこでようやく気づいたのだが、光源や花束の向きは右側に集中しているのに対して少女は何もない左側を振り返っていた。
視線の先には深い藍色の影があって、画像なのにゆらりゆらりと揺れているようにみえる。水面の影がゆっくりと波打ち、少しずつ満ちていくような感覚に陥る。
そういえば、あのモデルはどこの誰だったのだろうか。
ポスターのサンプルを眺めて考える。会場やモデルは企業側が手配していたはずなのにこのポスターのモデルのことは誰にきいても知らないといわれる。
もしかして幽霊かなにかだったのだろうか。
不思議な君は、今、生きているの?
【題:君は今】
2/27/2024, 4:24:52 AM