シシー

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8/13/2023, 2:31:34 PM

 自分が思ったことや感じたことを思いきり叫ぶこと

 赤ん坊のように泣き叫ぶのではなく、幼児のように駄々をこねるのではなく、自分を保ったまま自分の言葉で自分を主張する。
 文字だけみてると簡単そうだけど意外と難しい。
だって、主張なんてしなくても生きていけるから赤ん坊のように泣き叫ぶ必要はないし、成長すればある程度言葉を覚えて同時に感情表現やその方法も覚えるのだ。幼児のように駄々をこねる必要がなくなる。
 でもここまでくると自分の思考や感情の制御まで無意識にしてしまうようになる。空気を読むとかそういうやつだ。とにかく周りに合わせようとして自分の言葉や主張を変えてしまって、結局自分自身を偽るようになる。
 だから難しい。大人か子どもかなんてそんなに差はないと思う。抑圧される環境の有無や程度でいくらでも変わるから年齢なんて目安でしかない。

 「心の健康」が重要視されるときなんてくるのかな。
みんな何かしら我慢しあってようやく『支え合う』という構図がとれるのに、個人の見えない部分の健康なんて気遣えるの?

 こういう実現するかも分からない未来を想像しては否定してを繰り返している。楽しくはないけど暇つぶしにはなるからずっと考えてるの。
頭の中だけなら誰かに見聞きされることもないから、本来の自分が好き勝手してる。そうしないといつか自分が消えてしまいそうだから。
 心の健康ってどうやって保つのが最適なんだろうね。



                【題:心の健康】

8/13/2023, 1:59:58 AM

 何か一つくらいくれたっていいじゃないか
 同じ言葉でも君が音にのせればみんな褒めそやす
 その口で、その手足で、空気を震わせただけなのに
 誰も彼もがたちまち虜になっていく
 天地がひっくり返っても追いつけないほどの才
 僕にもそれがあったならよかったのに


             【題:君の奏でる音楽】

8/11/2023, 3:27:02 PM

「はい、どうぞー」

 にぱっと明るい笑顔で拳を突き出した姪っ子は珍しく機嫌がいい。つい最近姉が二人目の子を出産したためあまり構ってもらえなかったのが寂しかったのだろう。おやつや玩具を買っても見向きもせず、わんわんと大泣きしては暴れ回った。
これにはさすがに姉も参ってしまったようでしばらく俺と弟で預かることになったのだ。男所帯に幼い女の子を一人放り込むなんて、とは思ったがこれがまた可愛くて目に入れても痛くないとはこのことかと納得したほどだ。

 俺も弟も夏休み中であることを言い訳に姪っ子を甘やかしまくった。可愛らしいパフェが人気の店やSNS映えする写真スポット、夏定番の海やプールに花火大会や夏祭りまで。姪っ子が喜びそうなところをピックアップして連れ回した。
 最初こそ人見知りしていたが、今では大声で名前を呼んで抱きついてきてくれるようになったのだ。そして行きたい場所や食べたいものを百点満点の笑顔と上目遣いでおねだりしてくる立派なレディーに成長した。姪っ子が尊い。

 だが楽しい時間ほどあっという間に過ぎていくものだ。気づけば夏休み最終日となり、姪っ子も姉夫婦の元へ帰ってしまう。寂しさのあまり姪っ子より先に咽び泣いて「帰らないでぇ!」と叫びちらした。姉にぶん殴られ姪っ子にヨシヨシされてまた泣いた。めっちゃ天使。
 ついにやってきたお別れのとき、走り寄ってきた姪っ子の冒頭の「はい、どうぞー」である。
膝をついて目線を合わせてやると、突き出した拳を開いて可愛らしいヘアピンを2つ差し出した。「ありがとう」と屈託のない笑顔でいわれて、さらに俺と弟の髪にヘアピンをさした。

「これねお揃いなの!失くしちゃだめだよ!」

「「めっちゃ大事にする!!」」

 夏がくる度に思い出す。ガチャガチャで引き当てたヘアピンは未だ捨てられず、ずっと俺たちの髪を飾りたててくれている。またいつか、姪っ子の手で飾りつけてほしいものだ。
 仕事場に向かうため、ヘアピンをした上から麦わら帽子を被って歩く。いつも通りの道の端、小さな花束と見覚えのある缶ジュースが供えられていた。まだ新しいそれらをみて先を越されたなと独りごちる。

「まだまだ連れていってやりたいところあったのになぁ」




               【題:麦わら帽子】

8/10/2023, 2:16:36 PM

 真っ白な紙に真っ直ぐに線を引く。特に終わりは決めていないからずっと飽きるまで、たまに折り返しながら書き続ける。
ふと気づいたら部屋に西日が差していて、顔を上げたら橙と赤が溶けて混ざりあいながら沈みかけていた。
少し熱中しすぎていたらしい。別に熱中するほどのことなんて何もないのにおかしなものだ。
 握りしめていたペンをおいて、改めて紙を見下ろす。
真っ直ぐな線のはずがいつのまにかズレていってぐちゃぐちゃになっている。始まりも終わりもどこなのか分からないくらい、白い紙は黒いインクで埋め尽くされていた。
 なんだか今の自分の心境をそのまま映したかのようで見ていられない。力任せに破いて破いて破いて、全てを一纏めにして欠片一つ残さずゴミ箱に捨てた。
些細な出来事をきっかけに捻れて終点すら見失った惨めな自分なんてこうあるべきなんだ。
 ゴミ箱の中で影に沈む紙切れをみて一人自嘲する。
次の日燃えるゴミの回収日はいつだっただろうか。はやく燃えて消えてしまえばいいのに。ついでに自分も、消えてしまえば、なんて。

「…くだらない」



                   【題:終点】

8/9/2023, 10:07:55 PM

 ぜんぶ忘れてしまいたい

 そんな無責任なことばかり言って何もしないあなたにイライラした。そして可哀想な子だと思った。だから泣いてうずくまるあなたの肩を抱いて何度も言い聞かせた。

「上手くいかなくたっていいんだよ。あなたは頑張ったのだからそんなこと言わないで」

 あなたは涙でぐしゃぐしゃになった顔でぎこちなく笑った。ようやく伝わったのか、これで楽になる。思わず本音が出そうになるのを慌てて飲み込んで、今日はもう遅いから帰るねと伝えて何かあれば連絡するよう念をおした。
 次の日まで一切連絡はなかった。あんなにやつれた顔をして寂しいと泣いていたのに。なんだかモヤモヤした不安が胸中に広がっていく。だが、今日は大切な会議があってどうしても休めない。
とりあえずメッセージだけ送って家を出た。

 会議が終わった頃、またメッセージを送った。今朝送ったのには既読マークがまだついていない。それがさらに不安を大きくした。電話をする。出ない。もう一度する。やっぱり出ない。
今日も会いにいかないとダメか。ガクリと肩を落としてため息がこぼれた。確かに好きだ愛してるとは言ったけど、こんなに面倒くさい人だとは思わなかった。たかだかつながりの薄い親戚が亡くなっただけで本当に面倒くさい。
 会いたくない気持ちが強くなって知らず知らずのうちに残業までしてしまった。職場の人たちも疲れた顔をしていると心配してくれた。大丈夫だと返そうとしたときだ。
職場に電話がかかってきた。同僚がそれを受ける。
こんな時間に電話してくるなんていくらクライアントでも失礼だ。また残業が伸びるのか、とまたため息をつく。
 でもちがったらしい。電話はクライアントじゃなく警察からだった。どうやら自分に用があるらしい。少し緊張しながら電話を代わった。こんなこと初めてで手が震える。

―亡くなりました

 その言葉だけがやけにはっきりと聞こえた。浅くなっていく呼吸で息苦しくなりながらも、どうして、と掠れた声で問う。警察官は静かに淡々と詳しく説明してくれたが、どうにも自分が原因ではないかと責められているような気持ちにさせられた。怒ればいいのか、悲しめばいいのか。何も言葉が出てこなくて、促されるまますぐに警察の元へ向かうことになった。
 諸々の事情聴取などをうけてからようやく亡骸をみた。
穏やかとは程遠いくたびれた無表情のまま横たわっていたのだ。ふと、頭に浮かんだ。昨日何度も繰り返し伝えた言葉がグルグルと頭から足先まで巡って気持ち悪くなった。

『上手くいかなくたっていいんだよ。あなたは頑張ったのだからそんなこと言わないで』

 ああ、無責任だったのは自分の方だった。あなたをこんな姿にしてしまったのは紛れもなく自分だったのだ。
なんて酷いことをしてしまったんだろう。
 一人項垂れる自分に、誰かがまた同じ言葉をかけながら背をさすった。ああ、あなたもこんな気持ちだったのか。
なんて無責任な優しさなのだろう。まるで致死性の毒のようだ。
 謝ることもできないまま、毒を浴びる自分をあなたはどう思っているのかな。どうでもいいよ。悪いのは自分だからなんでも言ってくれ。苦しくてしかたないんだ。




         【題:上手くいかなくたっていい】

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