目が覚めるまでに、か
恋愛とか親愛、家族愛や友愛などなど『愛』がつくものを全力全身で叫びちらしたいかな
身近だから伝えるのが気恥ずかしいというのも理由ではあるけどそんなに可愛らしいものではない
もっとこう、目に見えない感情がそこに実在することを証明する難しさを考えずに吐き出したいのだ
ただ『愛してる』と叫ぶのでは何の説得力もないし、私が抱いてる感情をそのまま相手にも伝えたいのに全く理解してもらえない状況になりかねない
文章だけだと重たい愛に感じるだろうが、たぶん誰かが思い描いてるような愛よりずっと薄情なものだよ
愛よりも、それを正確に伝えたいという部分に執心しているから質の悪い完璧主義者と言われたほうがしっくりくる
シンプルだけど正確に伝えられる方法はないか
今、私はきっと夢をみていて目の前の人たちに伝えたいことがたくさんある
でも何をどう言えば伝わるのか悩んで迷っているのだ
口から出た言葉は戻せない、だから迷う
正直に愛してることを白状したらいいのか、それ故に憎んでいることもあると吐露していいのか
私には分からないんだ
目が覚めるまでに言えるだろうか
この夢が終わるまでに選べるだろうか
―愛しているからこそ、終わらせたいこと
―愛していないからこそ、続けられること
どこからどこまで言えば私の気持ちは伝わるのか
夢の中でまで優柔不断だなんてリアルだな
泣き出してしまいそうだよ
【題:目が覚めるまでに】
私は子どもの泣き声を聞きたい
暗い部屋にいるはずの子どもに泣いて縋りついてきてほ しい
一人で目覚めるのはとても寂しい
毎朝ポコポコと蹴って起こしてくれたじゃない
足先もみえないほど大きくなって存在を主張していた じゃない
重くなっていく度にどんなに腰を痛めたことか
ねぇ、なんでここには私しかいないの
私の腹はぺたんこになって足先までよくみえるのに
隣には小さなベットまであるのに中身は空っぽ
よく覚えている
あなたの姿を初めてみたとき私は涙がとまらなかった
痛みと嬉しさと色んなものが混ざった涙
いつまで経ってもあなたは私の隣に来ない
期待が萎んでいって代わりに不安が膨らんでいった
透明な箱の中、いくつものチューブに繋がれる子。
手のひらくらいの小さな胸が電子音に合わせて上下している。固く閉じた瞼はずっと閉じたまま、たまに足をバタつかせる様子をただ見つめている。
看護師がやってきて何か言っているけど、何も頭に入ってこない。透明な箱の小さな扉をあけて促されるまま手をいれた。
小さな頭から頰を指先で丁寧になぞる。ふるりと震えただけの瞼は開かない。拘束されていない方の手がピクリと動いた。チューブに触れないよう気をつけながら小さな手を握る。ほぼ人指と親指でつまんでいるようにしかみえないけれど、これが私たちの握手なの。強い力で握り返される指先は温かい。視界が揺らいでいくのを堪えて目の前の光景だけをみつめる。絶対に見逃さない、見逃してなるものか。
「はやく、泣き声が聞きたいなぁ」
小さな小さな私の子。大きな声で泣いて笑って私を呼んでちょうだい。そうしたらすぐに飛んできて抱きしめるから、目をまん丸に開いて驚いてくれたら嬉しいな。
こんな箱の中なんて退屈でしょう。私はもうすぐ出ていかなきゃいけないから寂しくて堪らないの。あなたも一緒でないとダメなの。
だから、はやく泣いてちょうだい。
【題:病室】
―可哀想に
そうですね。とても可哀想です。
―情けない
そうですね。すごく情けないです。
―どうして
とうしてでしょうね。全く検討がつかないです。
ズルリ、ズルリと音を立てて黒い布が剥がれ落ちていく。
ようやく見えてきた中身はボロボロで今にも崩れてしまいそうだ。どこもかしこも傷だらけできれいなところなど見当たらない。ただのガラクタ、ゴミ同然のもの。
途中で拾ったテープでヒビを隠し、欠けたところには布を裂いて詰め込んでいく。
テープにはとてもきれいな言葉がぎっしりと隙間なく印刷されている。幸せを説き、素晴らしいものを並べ立て、喜びを分け与えるようにできている。
そして裏側にはベッタリと張り付いて離れない執着がある。
真っ黒な布には何重にもなった記憶が画かれている。
何が画かれているのか読み取れなくなるまで重ねられていて、それがどんな記憶だったのか思い出せない。
だけどずっと纏っていたいくらい温かなものであることは確かだ。
淡々と貼って詰めてを繰り返す。
きちんと元通りになるようにしっかりと丁寧に作業する。
誰に邪魔されようとやり遂げなければいけない。決められたことを守り、与えられたものを大切にするのだ。
黒い手が肩を叩く。ポンポンと優しく呼びかけるように何度も何度も叩いてくる。そしてとんでもないことを囁くのだ。テープを貼る手を止めてくれ、布は詰め込むものではないから止めてくれ、と。弱々しい声で縋るように囁いてくる。
いい加減、鬱陶しくなってきて作業する手を早めた。丁寧さなんて二の次でいいからはやく終わらせたい。この黒い手と囁きから解放されたい。これ以上邪魔されたら、
「明日、もし晴れたら―――」
「え?」
思わず振り向いてしまった。だってそれは、あまりにも魅力的な誘いだったから。テープに印刷された言葉よりも、黒い布の温かさよりもずっとずっと甘美なものだったから。
テープを投げ捨てた。しつこい粘着が手について離れないけどもう関係ない。
布を踏みつけた。気を抜くと絡みついてきてきつく縛りつけてくるから大嫌いだったんだ。
黒い手の主は優しく微笑んでいる。
ああ、黒くみえていたのは手袋をしていたからだったんだ。そうだよね。あんなベタベタしたものを直接触るなんて嫌だもの。
うん、あんな布きれよりもこの手の方が温かいよ。自分の体温で温めていただけで本当は温度なんてなかったんだ。
黒い手が赤い紐を差し出し、プレゼントだといった。
そして自分の首を指さして、こう使うんだと説明した。
同じように巻きつけたら、褒めてくれた。
手を差し出されたから握った、握り返された。
嬉しくて嬉しくて久しぶりに声をだして笑った。
「明日は晴れだといいね」
次の日は晴れだった。
みんな黒い服を着て彼を囲んでいた。泣いたり怒ったり、意味のない問いかけをしてを繰り返している。
幸せそうに笑いながら横たわる彼の首には赤い紐の痕がある。
「…晴れてよかったね」
【題:明日、もし晴れたら】
私は可愛いものや綺麗なものが大好きだ。
特に化粧品やアクセサリーなんかがお気に入りだ。丁寧に飾りつけられ、照明の光をうけてキラキラと輝くからまるで宝石箱の中にいるようでワクワクする。
買い物に行くといつも目的のものを買う時間より、ショーウィンドウを眺めたり店内の商品やレイアウトに癒やされる時間の方が圧倒的に長いくらいだ。買いもしないのに見物するのは失礼だと分かっているけどやめられない。
私は可愛いものや綺麗なものをみるだけでいいの。買ったり身につけたりするのはそれらを汚してしまうだけだからみているだけでいい。
おしゃれをすることや流行りにのることにはもはや諦めている。私に優れた容姿や抜群のスタイルがあったのなら全力で着飾ってみたいなとは思う。だが、現実はどこにでもいるような印象の薄い容姿と寸胴で肩や胸がゴツい体型が邪魔をしてとてもじゃないが着飾る気などおきない。
一応ダイエットしたり美容に気をつかったこともあった。だが、どう足掻いても見劣りしてしまって眺めるだけに落ち着いたのだ。
ただ、やっぱり憧れというものはいつまでも消えてはくれない。いつかあのキラキラを自信をもって堂々と身に着けてみたいという気持ちは心の隅っこに残り続けた。
以前、衝動のままにバッチリメイクをしてお気に入りの服やアクセサリーで着飾ったことがあった。
「スッピンのほうがいい」
「いつもの服の方が似合ってる」
「そんなピアスつけるなんて意外だった」
「なんか派手すぎでしょ」
「胸大きいの自慢してるのかと思った」
案の定というか、周りからの反応はかなり冷ややかだった。私自身のことも、身につけているものたちも、まるで汚物をみるかのような視線と言葉を浴びた。そのときから私は着飾ることはやめて平凡であるための努力をするようにした。
すごく悲しかった。私が身に着けることで大好きなものたちの評価を下げてしまったことが本当に悲しかった。
自分のことなら何を言われても構わないが、好きなものを嘲笑われるのは許せない。
似合わない私が悪い。だからもう何も見ないで、言わないで。これ以上汚さないでよ。
好きなものを身に着けて着飾りたくなったときは、一人で鏡の前でファッションショーをする。
好きなものを嘲笑われないように、お気に入りのものを汚さないようにしたい。こんなにも大切な宝物たちが私のせいで価値が下がるなんて絶対に嫌だ。
だから、着飾るときは一人でいたい。
誰にも見られないようにひっそりと。
人知れず行われるファッションショーは思いきり楽しむの。
評価も価値もぜんぶ自分で決められる特別な時間だよ。
宝物たちも、私自身も、
傷つかないことはとても幸せでしょう?
【題:だから、一人でいたい。】
その場にいた全員が目を奪われてそらせない。
ザワザワとした喧騒が止んで、
忙しなく歩き回る人たちも足を止めて、
空気を震わせるほど大きな音のする方に注目する
その一瞬で、うんざりするほどの人混みと熱気を忘れさせた。心臓を鷲づかみにして揺さぶられたような衝撃だった。隣にいる知らない人も同じことを感じたのだろう。
わずかな余韻を残して消えていく様を見届けて、「ほぅ」と同時に息をつく。
辺りを見渡せば誰もかれもが同じ顔をしていた。
年寄りも若者もまるで子どものようにキラキラと澄んだ瞳で空を見上げている。幼子にはまだはやかったのか遠くで泣き声もしたけど、いつか大きくなったら分かるだろう。
青白い月が浮かんでいるだけの空が、パッと華やぐ瞬間のこの感動はいくつになっても忘れられない。
何度でも目を奪われて、心臓を揺さぶられる。
遠くからみるのもいいけど、やっぱり現地のあの身体ごと揺さぶられる体験は格別だ。
花火大好き!
いきなり語彙力消えるくらいの迫力だった。今でも余韻残っててドキドキしてる。最近の花火は変わり種が多くてワクワクが止まらない。曲に合わせて打ち上げたりとかの演出も最高。花火と花火大会に関わるすべての人に感謝しかない。感動をありがとうございました。
【題:澄んだ瞳】