私は子どもの泣き声を聞きたい
暗い部屋にいるはずの子どもに泣いて縋りついてきてほ しい
一人で目覚めるのはとても寂しい
毎朝ポコポコと蹴って起こしてくれたじゃない
足先もみえないほど大きくなって存在を主張していた じゃない
重くなっていく度にどんなに腰を痛めたことか
ねぇ、なんでここには私しかいないの
私の腹はぺたんこになって足先までよくみえるのに
隣には小さなベットまであるのに中身は空っぽ
よく覚えている
あなたの姿を初めてみたとき私は涙がとまらなかった
痛みと嬉しさと色んなものが混ざった涙
いつまで経ってもあなたは私の隣に来ない
期待が萎んでいって代わりに不安が膨らんでいった
透明な箱の中、いくつものチューブに繋がれる子。
手のひらくらいの小さな胸が電子音に合わせて上下している。固く閉じた瞼はずっと閉じたまま、たまに足をバタつかせる様子をただ見つめている。
看護師がやってきて何か言っているけど、何も頭に入ってこない。透明な箱の小さな扉をあけて促されるまま手をいれた。
小さな頭から頰を指先で丁寧になぞる。ふるりと震えただけの瞼は開かない。拘束されていない方の手がピクリと動いた。チューブに触れないよう気をつけながら小さな手を握る。ほぼ人指と親指でつまんでいるようにしかみえないけれど、これが私たちの握手なの。強い力で握り返される指先は温かい。視界が揺らいでいくのを堪えて目の前の光景だけをみつめる。絶対に見逃さない、見逃してなるものか。
「はやく、泣き声が聞きたいなぁ」
小さな小さな私の子。大きな声で泣いて笑って私を呼んでちょうだい。そうしたらすぐに飛んできて抱きしめるから、目をまん丸に開いて驚いてくれたら嬉しいな。
こんな箱の中なんて退屈でしょう。私はもうすぐ出ていかなきゃいけないから寂しくて堪らないの。あなたも一緒でないとダメなの。
だから、はやく泣いてちょうだい。
【題:病室】
8/3/2023, 12:31:45 AM