たくさんの思い出
拝啓 親愛なる君へ
風が吹き荒び、いよいよ冬も本番といった頃、いかがお過ごしでしょうか。
ふふ、驚いた?ちょっとお固めの挨拶にしてみました。お手紙なんて久しぶりだから書き方が分かんなくてね。
それで本題なんだけど、ていうかここからは私の遺書です。私がどう思って生きてたか、彼氏である君に伝えておきたくて。まあ自分の気持ちを整理したいっていうのもあるけどね。
私、自殺します。
あの周りより一際高いビルあるじゃない?あそこからぽーんっと転落死!ドキドキするよね。君は「やっぱお前可笑しいよな」なんて言うんでしょうか。それとも「そのドキドキって恐怖じゃねーの」とか言うんでしょうか。まあ何言ってても私にはもう聞こえないけどね。
あっ!動機、動機を書かなきゃね。まず生まれから遡りますか。私の家って名家でさ、長く続いてきた家だから本家とかあるんだよ。(もう知ってると思うけど)私が生まれたのは本家。そりゃもう金がかかった娘なんですわ、こちとら。小説に出てくる令嬢みたく、琴、ヴァイオリン、ピアノ、バレエ、塾、料理教室、部活してたんですよ。私めっちゃ器用じゃん?自由時間を犠牲にすれば全部ある程度出来ちゃったんだよね!!!でも、私完璧じゃないからめっちゃくちゃストレス溜まるわけ、友達と遊べないし、周りと違うの辛いし、先生厳しいし。なんで私だけこんな大変な思いしなきゃいけないの?って。ほんと嫌だった。
そんな時君と出会った。運命だと割と本気で信じてるよ。そのぐらい君に救われた。
出会った日の事覚えてる?覚えてない訳ないよね!
「俺達は赤い糸で繋がってるから、離れ離れになったってきっとずっと一緒だ!」
首をしめるのが、癖になってる。
問題を解き間違えた時、トイレしたとき、食べ終わった時、風呂に浸かってる時、人に見られてないなーって時、軽く首を絞める
昼休みが終わる頃、トイレの鏡を覗き込み、ふーっとため息をついた。
(やりすぎた、ちょっと痕がのこってる)
「おい、これどうした」
(びっくりした、田中かよ)
「関係ないだろ、ほっとけ」
「お前なんかちょいちょい首絞めてたけど、なんかあんのか?」
「放っといて」
「理由教えてー?」
「……もうこのことについて金輪際聞かないなら」
「うーん、分かった」
「ただの癖、スリル味わいたいだけだよ」
「変なの、中二病かよ」
「そーかもね」
「良いよな、お前には目に見える才能があって」
「アンタにもあるだろ」
「これは俺のしたいことじゃないっっ!!!」
彼のアトリエ(彼は認めてないけど)に絵の具や筆がぶちまけられた。べったりと、白い床に赤黄青などが混ざる。
「はは、今のアンタみたいな色になったな」
「はー、うるさい」
「描いてる絵、綺麗じゃん。白い翼が、黄色と黒が混ざった背景によく映えてる。……コイツ片翼だけなんだな」
「水面には両翼つけるつもりだ」
「昔は飛べてたっていう暗喩?もしかしてさっきの才能の話?」
「……違う」
「残った片翼、よく見ると羽が毟り取られた跡がある。自由に飛べないようにされたんだな」
「……」
「コイツ、アンタに似てる」
「飛べないやつはどうなると思う?」
「まあ大体死ぬだろ」
「コイツは拾われたっていう設定で描いた。中途半端に世話されて、鳥籠に入れられて……」
「何で鳥籠描かずに水面描いたの?」
「生きにくい場所ってこと」
「もうコイツ空見れないんだな」
「もう飛べないからな」
目が痛くなるような町並みを見下ろす。
今日は彼と秘密のデート、
「誰のことも気にせず歩きたい」
そう言った私をちょっと複雑そうな顔で、街が一望できる穴場まで連れてきてくれた。
「そういえば、前にもあったねこういう事」
「……高校の時に行った河川敷?」
「そう!夕日色に染まったススキとか川の先に見える街並みがすんごく綺麗だった、んでアンタの顔もキラキラしててさ、今でも覚えてる」
「ちゃんと青春してたね」
「あのときはねー、てかアンタこういうとこ見つけんの上手だよね」
「まあね、……あーお酒でも飲みに行く?」
「ハハッアンタ見つかったらヤバイでしょ」
「あー、うん」
「ほんと何処から仕入れてくるんだろうねアンタの情報、GPSでもついてんじゃないの」
「ありうるー」
「大変だねー」
3股、妻子持ちって