John Doe(短編小説)

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3/16/2024, 10:44:16 AM

クリーピーパスタ


2009年、俺がノースダコタ州で幼少期を過ごしていたある夏の夜、ソイツは現れた。

異形。

全身真っ黒のスーツ姿に白いのっぺらぼう、9フィートはあろうかという身長は細く痩せており、背中から無数の触手を生やしていた。

アイツは人間じゃない。怪異そのもの。

その夜、俺は死んだ祖父から買ってもらった双眼鏡で近所の森を部屋から観察していた。ソイツは現れた。数人の女児を引き連れて、森の中でおぞましいことをしてやがったんだ。
あれは悪夢なんかじゃない。内臓が弾ける音、骨が割れる音、ちゃんと聴いてしまったんだ。不思議なことに誰一人悲鳴を上げなかったことを覚えている。

以来、俺は小学生に上がる頃に都市部へ引っ越してそれっきりさ。

だけど、今でものっぺらぼうのアイツにじっと見つめられてるんじゃないかと、20年経っても背中に冷たいモノを感じている。

3/12/2024, 9:26:48 PM

告解


傷だらけの身体
それは自分のせいじゃないって思ってるんだろ?
君は嘘をつき続けるしかないのさ
だって君はひとりぼっちだから
今にも崩壊しそうな国の皇帝
気を付けろ、すぐに裏切り者が現れるだろう
君はどこにも逃げられない
だって君は自分が何者なのか知っているから

どこへ行くつもりなんだ?
まるでエッシャーの階段のような人生
どこへ行くつもりだ?
君は自分自身からは死んでも逃れられない

炭酸の抜けたサイダー
ただの冷えた甘い水にしてしまったのは誰だい?
君は偽り続けるしかないのさ
だって君はひとりぼっちだから
顔の傷でさえ隠せなくなってるぜ
気を付けろ、皆お前の素顔に注目し始めてる
君はどこにも逃げられないのさ
だって君は自分自身が既に孤独なのを知らないから

どこへ行くつもりなんだ?
この雨の中を車に乗って走り去っていく
どこへ行くつもりだ?
君はまたすぐに戻ってくるハメになるさ
どこへ行ったってムダなんだ
君はもう自分を偽れない
どこへ行ったって手遅れなんだよ
諦めて君は皆の前で告白し、懺悔するしかないのさ

3/7/2024, 1:00:25 PM

無慈悲な夜の女王


僕は映画が好き
暗い映画も派手なアクション映画も。
君は文学が好き
ヴェルヌにヘッセ、そしてハインライン。

君の可愛らしい白い手に接吻したい
君のいとおしい瞳に吸い込まれたい
僕らは似ても似つかないヒトだけど
僕は心から君を愛してるんだ

だから行かないで
だから消えないで
だから置いて行かないで

君のために僕も本を読もう
君は無理して映画を観なくてもいいから
いいんだ、僕は君の「好き」に触れたいだけ
届きそうなんだ、あとほんの少しで
笑顔じゃない君なんて見たくないよ

だから行かないで
だから消えないで
だから突然居なくなったりしないで

お願いだよ
お願いだ
僕の人生に君は必要なんだ

なんて美しいんだろう
この無慈悲な夜の女王は
そしてなんて悲しいんだろう
君の居ない月明かりに照らされた街は
僕は本当の君が戻ってくることを信じてる

だから、それまで僕も本をたくさん読むよ
もう一度、君の小さな白い手に触れさせてくれ

3/7/2024, 5:48:47 AM

水面下の神話


日曜日の夜、神が僕の枕元に降りてきて言った
「貴方は自分自身を赦すべき」と。
僕はただ黙ってうなずいた
何も考えなかった
心当たりは山ほどあるのにもかかわらず

僕は自由になるんだ
あの山頂を越えた先に何かがあるように
不確かで計算誤りの人生だけど
高速道路を疾走するトラックのように
自由を求めて駆けていく

月曜日の朝、庭のプールに奇跡が起きた
水面下に異国の風景が映り込んでいたから
ひどく驚いたけど
学校に行く時間だから歩みを進める
世界はこんなにも丸いのを踏みしめながら

僕は自由になるんだ
あの原子力発電所の向こう側に何かが隠れてる
ぼんやりとした濃霧の中の人生だけど
線路の上を疾走する特急快速のように
自由を求めて溶け込んでいく

あの水面下の風景はきっと神々の王国
連なる山々も原子力発電所も
神の国、あるいは自由へのきざはしだったんだ

そして、僕は自由になるんだ

3/5/2024, 1:03:01 PM

ようこそ、私の新しい世界!!!


扉を開くのは私自身
その先に何が待ってるかなんて不安になっちゃダメ
ほら、過去の世界は蹴っ飛ばしちゃえ
私は未来に向かって進むしかないんだ
すべてが「新しい」に変わっていく
夢も憧れも後悔も心的外傷も
“ワタシ”を形作る大切なモノ

ようこそ、私の新しい世界!!!
おかえりなさい、私の生命。

諦めかけたけど
終わらせてしまいたいとも思ったけど

ほら、私は帰って来ることができた
私は本当は強かったんだ
私は病気がちのか弱い少女じゃない
私は心に不協和音を奏でる少女じゃない
私の世界はこんなにちっぽけじゃない
私の世界は、宇宙は、誰にも想像できないくらい大きな大きなものだったの

ようこそ、私の新しい人生!!!
さようなら、私を立ち上がらせてくれた苦痛!

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