John Doe(短編小説)

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3/24/2023, 8:24:09 AM

大人の夢


大人になれば、何でもできると思っていた。
誰もがたくましく生きていけると思っていた。
大人は本来完璧なはず。

でも、そうじゃなかったみたいだ。

憧れていた酒は気持ち悪くて飲めなかった。
憧れていたタバコは何もカッコ良くなかった。
免許を取っても車になんか乗りたくなかった。
異性と恋をしても疲れるだけだった。

鏡を見てみろ。
目の前のやつれた、弱々しいその姿がお前が夢見ていた『大人』だ。
日々のストレスを引きずり。
引きこもるようになり。
何もかもが破綻した今のお前は。
今のこの自分が、大人だって?

悪い冗談じゃないのか?
本当の自分はまだ幼い子供で、きっと悪夢を見ているに違いない。

なあんだ、ただの夢だったのか。

こんなヤツが、ぼくのはずじゃない。

ぼくはまだ、こども。
そうだよね。
そうだといってよ。
ああ、はやくがっこうにいかなきゃ。
せんせいが。ともだちが。
ぼくをよんでる。

だれか、たすけてくれ

3/22/2023, 11:12:39 PM

もう一度生まれてきたら


もう一度生まれてきたら
まず君に会いたい
もう一度生まれてきたら
悲しませたことを、謝りたい
もう一度生まれてきたら
今度は前よりもっと優しい人になりたい
もう一度生まれてきたら
私を支えてくれた人達に感謝したい
もう一度生まれてきたら
自分の限界を決めつけず、ただ前進したい
もう一度生まれてきたら
空が青くて、星が輝いていたことを確かめたい
もう一度生まれてきたら
もう一度生まれてきたら
君を傷つけずに、守ってあげたい

だから、私にもう一度チャンスをください。

3/17/2023, 9:19:49 AM

レコードの針とあなたと


私はレコードをかける。
華やかな音楽が流れ、憂鬱な夜がロマンチックなものに変わる。
いつの間にか、あなたが部屋にいた。
私の手を取り、ダンスへと誘導する。
私は踊れない。
それでも構わないと、あなたは私をリードする。
あなたはとても暖かい。
あなたの温もりを感じていると、つい足を踏んでしまった。
気にしないでくれ、とあなたは微笑む。
レコードの針のノイズ音がとても切ない。
曲が終わってしまうことが悲しい。
でも、いつまでも踊り続けることはできない。
曲が終わりに差し掛かる頃、私は踊るのをやめて、あなたの腕の中へと身体を預けた。
あなたは微笑んだ。
私は何度も何度もあなたの名前を呼んだ。
素敵な夜だった。

















レコードは、もう鳴らない。
針は折れてしまっている。
道路の真ん中で私は横たわっていた。
頭から血だまりができている。
遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
あなたが誘導してくれるのを、待っていた。

3/15/2023, 1:57:13 PM




僕は浮き沈みを繰り返す。
左に、右に、上に、下に。
とても気持ちが良いんだ。
感じるのは恍惚だけ。
僕の身体は、とっくに朽ちたんだ。

悲しみの果てに、涙は川になった。
僕はそこをずっと流れている。
透明な涙の川に、僕の真っ黒なハートが溶け込む。
そして川は黒く染まっていく。
全て混ざり合っている。
脳も、心臓も、神経も、細胞も。
ここはいたって平和だよ。
もう失うものは何一つないから。

母親の子宮の中にいるようだ。
この切ないような安心感を、僕は覚えている。
そこは羊水に満たされていた。
世界でいちばん安全な場所だった。
ああ、母さん。懐かしい響きがする。
母さん。母さん。
声を出そうとしても、泡が水面へと昇るだけ。
心が溶けてしまいそうだ。
大勢の人間が僕を覗き見ている。
その中に、彼女の姿。
その中に、幼い僕自身の姿。
僕を愛してくれたたくさんの人々。
さようなら。
でも、もう会いたくないかな。二度と。

僕は流れていく
僕は流れていく
僕は流れていく
僕は流れていく
僕は流れていく

緩やかに。

3/14/2023, 1:42:44 PM

クレイジー・ガール


「ねぇ、“愛”って何だと思う?」
私は自分に対して質問する。
しばらくして、風が答えてくる。
『その難病のことよ。ガール』

君を愛し過ぎて、好き過ぎて、死んじゃいそう。
でも、私の声は、気持ちは君に届かない。
クラスのチアガール達の方がずっと君にはふさわしいだろうから。
可愛くて、輝いてる彼女達。
シャイでダウナーな私なんか、興味ないよね。

だから、私は君を影で応援してるね。
でも、ああ、君を気にしないように思えば思うほど、気持ちが苦しくなってきちゃう!
愛って残酷。
世界が逆さまになればいいのに。
神様が私に振り向けばいいのに。

昼休み。
君は女の子達とカフェテリアに行く。
私は教室でママが作ったお弁当を一人で食べる。
こっそりロリポップも持って来たのは、私は甘いものが大好きだから。
君にあげようなんて、絶対絶対思ってないから!

でも、もし世界が、神様が私に味方してくれたら。
その時君にこのロリポップをあげてもいい。
君に告白すればこの病気は治るのかな?
私に誰かを愛する資格なんてあるの?
君を幸せにできるの?
本当に?

チアガール達と君が教室に戻ってきた。
君が私に微笑んだ気がする。
ううん、きっと気のせいね。
もうすぐ授業が始まる。
胸が気持ち悪い。
やっぱり私、クレイジーだ。



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