NoName

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6/26/2023, 11:11:13 PM

 記憶は嘘を吐くものだ。

 最後に会った日のことを、今も鮮明に覚えているつもりだ。
 互いに別れを惜しんで泣きじゃくる幼い子供だった。
 簡単に会えなくなってしまうことを理解しながら、簡単に将来の再会を誓い合える無垢な子供だった。
 実際は成長と共にどちらともなく手紙を出さなくなり、五年十年経っても再会することなど無かったというのに。

 それでも、今も思い出は残っている。
 ただ、朧げな記憶を映し出した蜃気楼の君は、決して老いること無く笑っているのだろう。
 あの日の思い出を美化したまま、自分の中で生き続けるのだろう。

6/25/2023, 2:19:06 PM

 世話が面倒臭いと、何度思ったことだろう。
 繊細で手間ばかり掛かるくせに枯れるのはきっと一瞬で、美しく咲き続ける保証など何処にも無い。
 手入れを欠かせば簡単に朽ちてしまいそうな儚さを、その程度のものだと切り捨てられればどれほど楽だったのだろう。
 何もしなければ自然に淘汰されるはずだったその輝きに、魅せられ手を伸ばしてしまったが運の尽き。

 いつかは朽ち果てるこの華の首を優しく手折るその日まで、自分は愚かにも、この華に尽くし続けるのだろう。
 

6/24/2023, 4:58:09 AM

 子供の頃は、何を捨てずとも無敵になれた。

 人目を気にするよりも自分を偽る方が苦痛だった。
 人を喜ばせる言葉よりも自分に正直な言葉を話せた。
 未知は恐怖ではなく高揚感を煽り好奇心を躍らせた。
 眼前の興味の赴くままに走り出せた。
 他人を疑うより信用する方が簡単だった。
 当たり前のように大声で笑い合い時には喧嘩も出来た。

 子供の頃は、何を捨てずとも無敵になれた。
 積み上がった時間は、成長という名の重責-弱さ-をくれた。

6/22/2023, 10:12:15 AM

 明日も続く保証なんて何処にも無いのに、
 誰もが当たり前のように訪れると信じて疑わないもの。

6/21/2023, 10:33:44 AM

 色の無い世界で生きて来た。
 全てが褪せて、古ぼけた写真のような、頭上を覆う曇天のような、目前にあるのに現実味が無くて、視界に薄靄が掛かっているような。
 全てが他人事のような世界で、ただただ漠然と生きて来た。

 そんな世界に、強烈で、鮮烈で、眩いくらいの極彩色が飛び込んできた瞬間。
 見たことも無かった光景に、それを与えてくれた君に、初めて心を動かされた。

 自分が、産まれたような気がしたんだ。

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