NoName

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 記憶は嘘を吐くものだ。

 最後に会った日のことを、今も鮮明に覚えているつもりだ。
 互いに別れを惜しんで泣きじゃくる幼い子供だった。
 簡単に会えなくなってしまうことを理解しながら、簡単に将来の再会を誓い合える無垢な子供だった。
 実際は成長と共にどちらともなく手紙を出さなくなり、五年十年経っても再会することなど無かったというのに。

 それでも、今も思い出は残っている。
 ただ、朧げな記憶を映し出した蜃気楼の君は、決して老いること無く笑っているのだろう。
 あの日の思い出を美化したまま、自分の中で生き続けるのだろう。

6/26/2023, 11:11:13 PM