待って、まだ私は。
小鳥のように弱く濡れた声は、赤黒くて寒い部屋に谺するだけだった。
誰かの手を借りないと動けない話せない私は、貴方がいないと何も出来ない。
紅茶を飲むことも、花を嗜むことも、フリルのドレスに心を踊らせることも。
私はたかが人形。ドール。玩具。
何れ手放される日が来るのは分かっていた。
それでも私は、まだ貴方と……
<終わらせないで>
冷たい木枯らしが夏の日焼けを思い出させる肌を通り抜けるこの季節。
季節の変わり目というのはどうも体調を崩しやすいですね。
受験まで数ヶ月を切り、私も正念場というところ。
…窓を見るとよく紅葉だとか銀杏だとかが、はらはらと落ちていくのを見かけます。
秋は短いと毎年思い知らされるので、今年こそは満喫したかったんですけど…あっという間にもう12月になりそうで、満喫する暇もなく冬支度を始める羽目になりました。
みなさんも風邪をひかないように、体調管理しっかりしてくださいね。
私も落ち葉みたいに受験に落ちていかないようにします☺
<落ちていく>
(珍しくエッセイ調にしました)
本日は快晴、旅日和である。
自分は依然何処か知らない土地へと旅立つ銀色の鳥を見送っている。時計の針は何も言わず淡々と出立時刻を延々と告げている。
手に握られたチケットはもっと後時間のチケット。
知らない土地の知らない機体に乗るためのものだ。
学生時代から愛用しているジャケットを窓の反射越しに眺める。ふと、ノスタルジーな感覚に陥いった。
目を閉じると閃光のように古ぼけた記憶が蘇る。
そんなに時間は経っていないはずなのに、悲しいことにどんどん薄れてしまうのだろう。
まだ少年だった自分は、目の前のことばかり気にして、時に叱られて凹んで、調子に乗っては……
自分はどうしてこうも変わってしまったのだろうか。あの頃は友に囲まれながら、外界から隔たれた全寮制の学校に青春をつぎ込んで暮らしたのだ。
あの頃に戻りたいと願う事も、貴方は理解してくれるだろうか。
時計はチケットに綴られた時刻を告ようとしている。
自分は掌中の紙切れを握りしめ、雑踏の中足を規則的に進めながら搭乗口へと向かった。
"過去の自分とは未だ手を切れぬまま、のたうち回りながら生き長らえる自分のことを戒めてくれる人は、この先現れるだろうか?"
柄にもなく寂しくなる。
ジャケット越しにでも胸が痛むのが分かる。
この銀の鳥が、この胸の苦しみをこの地に全て捨て去ることが出来たら良いのに…
今はそう思うことしかできない、そう思い知らされた気がした。
<過ぎた日を想う>
ガチャリとドアを開ける。既に時計は深夜一時を指している。駅からちょっと遠い家を選んだことを少しだけ後悔した。
久しぶりの我が家の匂いは懐かしい、ような気がする。いくら自分の体が丈夫だから、そしてストーカーを撒く為に会社で寝泊まりするくらいの残業付きでうん連勤はさすがに厳しかったようだ。
仕事着を脱いで洗濯機に入れてスイッチを押す。もう食事をする気力も無い、ということでとりあえずスマホを見た。
そこにあったのは、学生時代からの親友で、腐れ縁で、ほぼ音信不通の彼からのLINEだった。
「やっときた…」
世界中を旅している彼は滅多に連絡を寄越さない。最長は8ヶ月、今回は3ヶ月既読すら付けなかった。
『今はどこを旅しているの?怪我とかはしてない?』
手際よく打ち込み送信する。本当は電話でもしたいが生憎気力が無い。
『この前まで東欧にいて、今日本についた。家に着いたらまた連絡する』
業務連絡じみた簡潔な文章。
早く会って話がしたい。文や電話越しで話すのと、目を見て話すのでは天と地ほどの差があるのは歴然である。
…幸いなことに彼には合鍵を渡してある。言ってしまえばまぁ、彼はヒモだから帰る度に家にあげれるようにしてある。
はぁ、とため息をしてスマホを机に置いてソファに横たわった。連勤明けで睡眠が圧倒的に足りていない。
溜まった有給を削るために明日明後日は休日にしてあるからとそのまま眠りについた。
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…朝起きると、何故かベッドの上に居た。
昨日(0:00をすぎていたから昨日とも言い難い)はリビングのソファで気絶したはずだ。
時計は8時半、朝日が気持ちよく寝室に降り掛かっている。
部屋の外から匂いがする。朝食の匂い、彼が家に来ると決まって作る匂いだ。
寝ぼけ眼に家用のメガネをかける時間も惜しくすぐ寝室から出た。そこには、待ち焦がれた彼がいた。
「よぅ、久しぶり。よく寝れたか?」
前に会った時より少し大人びた様子で笑っている。ゴミが散乱していたはずの部屋は綺麗に整頓されていて、見違えるようになっている。
「…久しぶり。部屋の片付けもしてくれたんだ。ありがとう」
「礼には及ばないよ。こっちも全然連絡してなくて心配かけて…」
「ううん、こうして元気に会えただけで嬉しい」
その時、LINEの通知が鳴った。
『今すぐそこまで着いた』
間違いなく彼からのLINEだった。
"彼"はこちらを不敵な目で見ている。
メガネを急いでかけて見てみると、背丈や髪の色、長さは似ているがまるで違う人間だった。
……目の前にいる"彼"は、何者なのか?
<君からのLINE>
心臓の波打つ音が耳に響く。煤臭い匂いと焦げた瓦礫ががらがらと崩れる街の中心で、私には胸の鼓動だけが聞こえていた。あぁ、気持ちが良い。
身を任せて瞳を閉じた。
さっきよりももっと鼓動が近くなる。
喉が焼けるように痺れる。閉じた眼の奥がぐわぐわと痛む。剥がれた爪をカバーするために巻いた粗末な包帯も意味を成さなくなっている。
火の海となった街の中心で貴方に問いかけた。
「これでよかったの?」
…
「いいんだ。どうせ、これ以外に道はなかったろうさ。」
そう言って、貴方はいつもと変わらぬ笑顔を見せていた。真っ直ぐ私を見つめている眼は宝玉のようにきらきらと輝いている。
私は手を握った。
大きさの違う手を重ね合った。
「…じゃあ、また。」
「……だな。」
そうして私たちは、街の中心で、
瓦礫と火の海に飲み込まれたのだった。
<胸の鼓動>