心臓の波打つ音が耳に響く。煤臭い匂いと焦げた瓦礫ががらがらと崩れる街の中心で、私には胸の鼓動だけが聞こえていた。あぁ、気持ちが良い。
身を任せて瞳を閉じた。
さっきよりももっと鼓動が近くなる。
喉が焼けるように痺れる。閉じた眼の奥がぐわぐわと痛む。剥がれた爪をカバーするために巻いた粗末な包帯も意味を成さなくなっている。
火の海となった街の中心で貴方に問いかけた。
「これでよかったの?」
…
「いいんだ。どうせ、これ以外に道はなかったろうさ。」
そう言って、貴方はいつもと変わらぬ笑顔を見せていた。真っ直ぐ私を見つめている眼は宝玉のようにきらきらと輝いている。
私は手を握った。
大きさの違う手を重ね合った。
「…じゃあ、また。」
「……だな。」
そうして私たちは、街の中心で、
瓦礫と火の海に飲み込まれたのだった。
<胸の鼓動>
9/8/2023, 2:38:56 PM