お痒

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ガチャリとドアを開ける。既に時計は深夜一時を指している。駅からちょっと遠い家を選んだことを少しだけ後悔した。

久しぶりの我が家の匂いは懐かしい、ような気がする。いくら自分の体が丈夫だから、そしてストーカーを撒く為に会社で寝泊まりするくらいの残業付きでうん連勤はさすがに厳しかったようだ。

仕事着を脱いで洗濯機に入れてスイッチを押す。もう食事をする気力も無い、ということでとりあえずスマホを見た。

そこにあったのは、学生時代からの親友で、腐れ縁で、ほぼ音信不通の彼からのLINEだった。

「やっときた…」
世界中を旅している彼は滅多に連絡を寄越さない。最長は8ヶ月、今回は3ヶ月既読すら付けなかった。

『今はどこを旅しているの?怪我とかはしてない?』

手際よく打ち込み送信する。本当は電話でもしたいが生憎気力が無い。

『この前まで東欧にいて、今日本についた。家に着いたらまた連絡する』

業務連絡じみた簡潔な文章。
早く会って話がしたい。文や電話越しで話すのと、目を見て話すのでは天と地ほどの差があるのは歴然である。

…幸いなことに彼には合鍵を渡してある。言ってしまえばまぁ、彼はヒモだから帰る度に家にあげれるようにしてある。

はぁ、とため息をしてスマホを机に置いてソファに横たわった。連勤明けで睡眠が圧倒的に足りていない。

溜まった有給を削るために明日明後日は休日にしてあるからとそのまま眠りについた。

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…朝起きると、何故かベッドの上に居た。
昨日(0:00をすぎていたから昨日とも言い難い)はリビングのソファで気絶したはずだ。

時計は8時半、朝日が気持ちよく寝室に降り掛かっている。

部屋の外から匂いがする。朝食の匂い、彼が家に来ると決まって作る匂いだ。

寝ぼけ眼に家用のメガネをかける時間も惜しくすぐ寝室から出た。そこには、待ち焦がれた彼がいた。

「よぅ、久しぶり。よく寝れたか?」

前に会った時より少し大人びた様子で笑っている。ゴミが散乱していたはずの部屋は綺麗に整頓されていて、見違えるようになっている。

「…久しぶり。部屋の片付けもしてくれたんだ。ありがとう」

「礼には及ばないよ。こっちも全然連絡してなくて心配かけて…」

「ううん、こうして元気に会えただけで嬉しい」

その時、LINEの通知が鳴った。

『今すぐそこまで着いた』

間違いなく彼からのLINEだった。

"彼"はこちらを不敵な目で見ている。
メガネを急いでかけて見てみると、背丈や髪の色、長さは似ているがまるで違う人間だった。

……目の前にいる"彼"は、何者なのか?


<君からのLINE>

9/15/2023, 4:20:51 PM